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調査最終日の朝

 

・ ・ ・ ・ ・



 翌朝、マグ・イーレ遺骨調査団一行はテルポシエに向けてった。眠月じゅういちがつにしては生ぬるいような空気が、騎上のカヘルにまとわりつく。


 厳しい寒気の中を進むのも辛いが、のちに小さな嵐がひとつ来ようかと予想される不穏な温かさの中を行くのも、気持ちの良いものではない。


 ノスコだけは別行動で、オーラン市内の薬種商へ行ってから調査団一行の後を追うことになった。多少おくれたとしても、外套デリアド国章下にある衛生文官の印を見れば、テルポシエ側とて難癖をつけずに通してくれるはずである。


 国境へ迎えに来ていたエノ軍幹部と草色外套のテルポシエ巡回騎士らも、すでに慣れきった様子であった。この遺骨調査も本日で最終日。問題なく乗り切れば、後は和平に向けての歩み寄り親書外交がつらつらと再開されよう。


 これから季節は闇の中へ――冬の眠りの中へと沈んでゆく。春まで目立った動きはなかろうな、とカヘルは見当をつけていた。



「今日こそ、何らかの手がかりを見つけましょう。おじさん」


「そうだの、ザイーヴちゃん。モーランのやつを、マグ・イーレに連れて帰らんとな」



 カヘルの右脇後方で、ファイーとカオーヴ老侯が低く話している。ファイーともうひと組の遺族だけが、全く遺品を見つけ出せていなかった。伯父と姪に焦った様子はない。しかしカヘルの耳に届く二人のぴしぴししたやり取りには、どこか寂しさが滲んでもいた。


 遺体そのものを見出して火葬処理を済ませた遺族や、はっきり故人のものとわかる遺品を探し出せた引退騎士らも、今日はこの二家族のために判別作業を行うことになっている。カヘルはバンクラーナに、引き続き鑑定で協力するように言ってあった。


 今日の作業終了時刻までに判別のつかなかった遺品は、全て火葬施設で燃やされることになるのだ。その時限までに何とか、とマグ・イーレ遺族たちは悲愴な気持ちを抱えている。



「物を見て、その持ち主をみつける理術、ゆうのがあったら良かったんですけど。……いや、応用に重ねて応用きかすような器用な理術士やったら、編み出せるんかなぁ……? あいにくと、私には使われへんのです」


「いやー、さすがにそれは難しいんでないの? そもそもの持ち主がもういないわけだし。あとは地道に調べていくしかないでしょ」



 亡き同僚たちの遺品をどうにか見出していたファランボ理術士とハナン傭兵隊長が、ランダル騎の少し後ろに並んでぼそぼそと話している。


 彼らは今回持ち帰るものを、マグ・イーレの市民墓地に葬るつもりでいた。



「作戦終了後に、まつってもらってはいたけど……。これでほんとに本当の供養、ってことでね。ちゃんと皆、丘の向こうに行けてると良いんだがな」



 ハナンは、いなくなってしまった同僚たちのことを考えていた。三人の傭兵たちは身寄りのない独り者ばかりだったが、みな生粋のマグ・イーレ人だ。自分たちの持ち物が、いつまでも仇敵国に取り残されているのは気分が良くなかろ、と傭兵隊長は思いやる。



「さいですねぇ」


「あんたのとこの二人もね」



 ティルムン生まれの理術士は、ハナンに向けて小首をかしげた。



「……どうですやろ。私はもうマグ・イーレ人みたいなもんやし、イリーの考えにも染まってますから、死んだ後には丘の向こうをめざすんかなと思いますよ。でもセイボ隊長とナンボはんは、こっちイリーに来たばっかりでうなりましたからねぇ……」



 ティルムン人に、死後・・の観念はない。身体が機能しなくなったらそれでしまい、とするのが普通だった。イリー人のように、魂たる不滅の存在が入れ物としての身体を離れ、別の場所へゆくとは考えられていないのだ。



「割とあっさりしてるんだよね?」


「いやいや」



 ファランボははんなり微笑して、ハナンに肩をすくめて見せた。



「生きてるもんが、その人を憶えてるうちは。その人はなくなり・・・・はしいひんのですよ」


「……?」


「そういうもんと違います? 忘れへん、って」

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