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筆名ですからね筆名

 


 そうして一同はいつのまにか皆、上品な円卓の席についていた。


 黒いお仕着せの給仕たちが、湯気の立ちのぼる陶器椀を持ってくる。それを手に、ランダルがカヘルに話しかけた。



「私たちはね、こちら……パントーフル先生。ええ、パントーフル先生ですよ、良いですね~?? 文筆仲間のサンダル・パントーフル先生と、会食中だったのですよ。久しぶりに」



 微妙に王圧・・をかけてくるランダルの態度に、カヘルは無言でうなづいた。マグ・イーレ王がパンダル・ササタベーナ先生であるように、前オーラン元首ルニエ老公がサンダル・パントーフル先生なのだろう。


 どういう方向なのだか知れないが、公式とは全くかけ離れたつながりを、両者は持っているということなのだ……おそらく。これ以上突っ込んで聞くことは、変人大集合のマグ・イーレ王室に近づくことと同じとみなし、危険を感じたカヘルは何も問わなかった。いや単に、知りたくないのである。



「それでたまたま、ここに居合わせたわけですが……。デリアドの皆さんは、なぜ港に?」


「……ぶどう巻きなる名物を食しに参りました。なぜかそこで、偶然に仇敵と鉢合わせたのです」



 じーっ!!


 ランダルとルニエが、双眸を細めてカヘルを見る。デリアド副騎士団長は溜息をついた。



「……ということに、話を合わせていただけますか」


「合わせましょう。そしてカヘル侯、ここにいるのは貴侯あなたのところのデリアド勢と、マグ・イーレ内々の者だけです。パントーフル先生は、……」



 地味ながらもすさまじく品のある茄子紺色の上衣を着たルニエ老公を、ランダルは振り仰ぐように見た。



「私は隠居の身です。ましてやここには、私的会合のために来ているのですよ。見聞を全て宮廷に伝え、おおやけにする義務はありませんし、そうするつもりもありません」



 オーラン宮廷に対し内密にしておくと、暗に保証するような穏やかな口ぶりで老公は言う。しかしカヘルには、ルニエ老公の上品なる好奇心が手に取るように感じられた。ここはもう、打ち明けるしかなかろう。どっちみちランダル達のマグ・イーレ勢は、叔母のニアヴを通して遅かれ早かれすべてを知ることになるのだから。



「……では、なんですか。あのドルメンの中で亡くなっていた人というのは、ガーティンローの引退騎士で! しかもカヘル侯に、裏で≪蛇軍≫と手を組ませようと持ちかけていたのですか!?」



 かいつまんで話した事情を、マグ・イーレ王は即座に飲み込んだ。眉をひそめた下の眼差しが、厳しくなっている。カヘルはうなづいた。



「何と言うことでしょう。つまり我らが混成イリー軍の中に、あの謎の敵集団と内通していた者がいたということになりますね……?」



 ランダルの隣で、ルニエ老公も上品に顔をしかめている。



「先ほど港で対峙した≪ベアルサ≫が、シトロ侯の死にどれだけ関与しているのかは不明です。しかしシトロ侯が死んでいたことを、ベアルサは全く知らない様子でした。またデリアド領内で死亡したほかの一味と違って、≪言呪戒ごじゅげ≫をかけてはいなかったようです」


「では、仲間割れを起こして殺された、という状況でもなかったのでしょうかね…… って何、ブラン君?」



 ランダルの隣に座し、恐るべき静かさで何かを咀嚼していた護衛が、マグ・イーレ王の肘をつかんだのである。りすのように両頬が丸かったが、それをごくりと飲み下してから口を開いた。



「カヘル侯。その人って、先生がお風呂に入っていた時に貴侯あなたと話していた人のことですか?」



 胃の腑に冷やり、としたものを感じた……そう、我らが冷えひえ副団長が、である。



――見ていたのか……。



「何か、どこかで見たことのある人だ……って思っていたんですけど。ようやく思い出しました、ベッカさんの護衛していた時に会ったことがあるんです。一度だけ」


「……貴侯と、フリガン侯が? 生前のシトロ侯に?」



 カヘルは、ブランの小さな円い目を見た。どこかやぎに似た、朴訥な顔である……祖父同様。

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