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援軍到着、中継席からこんばんは

 

「後悔して派手に死ねやぁぁぁ、若僧カヘル!!」



 ベアルサの高笑いとともに、夜空の高みから彗星のように業火の柱がカヘルめがけて落ちてきた。


 その身を焼きつくしに迫る巨大な炎の奔流を頭上にしても、我らがデリアド副騎士団長は怯まない。


 ひるむどころか、カヘルは余計に眼光がんを鋭くした。戦棍の柄に取り付けた頑丈なる革製つり紐すとらっぷを右手首にさっと通す。そこを起点にしての戦棍大回転で、理術の炎すら撃退する気満々なのだ! いや今回さすがに無理があるのでは!?


 が、その瞬間。


 ぎゅん・ぶうんッッ!!


 十歩ほど先の場で笑っていたベアルサが、突然ぐらりとよろけた。


 同時に、業火の柱は空中にてぱっと四散する――。振りかかる数多あまたの火の粉を、カヘルは難なくよけて後退した。



「その様はまさに、冬の寒空に咲いた大輪の菊花ッ! 闇に光って散りゆく花びらが、デリアド騎士らの外套をさらなる黄金きんに浮かび上がらせるッ」



 やたら知的に吟じるような声が、ローディアのずっと後方……緑地側から聞こえてくる。



「しかし! たまやかぎやとたたえている時ではありません! 皆さん御覧の通りに正念場です、そして悪者は……ああ足を踏ん張りました! 我らが若き狙撃手の一矢は、カヘル侯の窮地を救いはしたものの! 決定打にはならなかったもようですッ」


「王命許可。ブラン君、ハナンさん、どんどんやっておしまいなさいッ」



 うぇっ、と思ってローディアは振り返った。


 ファイーが緑地内で身を隠したはずの、仕切り石壁の上に……いくつも顔が出ている!


 その両脇に、片足をかけて身構えた影が二つ見えた。


 びいん、ぎいん!!


 その影たちから放たれた射撃が、つんざくように夜の空気を裂く。ローディアの頭上を通り過ぎてゆく……!



「う、ぐっ」



 白く光る杖を握ったベアルサの、肩と脚とに命中したらしい。


 ひゅい、すとうッ!!


 山羊のように柔和で朴訥な面持ちのブラン青年が、ごく正確に、さらに恐るべき速さで第三矢を射る。それを間近に見て、ファイーは息を飲む。


 石壁の上に顔だけ出しているマグ・イーレ王とその親友の古書店主の背後、細い木製突剣を下向きに構えながら、女性文官は思わず内心で呟いた……恐ろしい子!



「あああッ! しかし敵方理術士は再び≪防御壁≫を展開しました! そのままハナンさんのいしゆみに射られた足を引きずって、波止場へと寄って行きます! と、仲間どもに支えられて舟に飛び乗ったーぁ!?」


「デリアド騎士たちが飛びつきかけるが、あと一歩のところで及ばないッ。漁船に見せかけていた舟にのって、悪者一味はすばやく海上へと出てしまったーぁ! 戦棍を手に、肩で息をしながら立ち尽くすカヘル侯! こーれーは無念だッッ」



 実によくしゃべる古書店主とマグ・イーレ王である。どうしてこの二人はこんなに中継かけ合いが板についているのかと、怪訝けげんに思うファイーであった。



「は、速いっっ……」



 ローディアには、その小舟の動きが信じられなかった。ベアルサ一味の男たちが全力でかいっている様子ではあるが、風もないのに異様な速度である。舟はすでに、沖合まで遠ざかってしまった。ベアルサの杖の白いあかりが、どんどんと小さくなってゆく。



「くう、≪早駆け≫を舟にかけよった……! あかん、姿をくらまされるッ」



 カヘル達の背後、獅子頭の術士帽の下から悔しそうにファランボがうめく。そこに緑地のほうから、あらたに上品な声がかかった。



「大丈夫ですよ。私の執事が、もう黒塔に指令を出しております」



 振り返ったカヘルの目に、すいっと歩いて来る老人の姿が見えた。その後ろには、ぞろぞろと人の影……。



「……ルニエ老公? 先生がたも、何故ここに……」



 さすがに少々あっけに取られて、カヘルはオーラン前元首に問うた。



――それ言うなら、ファランボ理術士もどうしてここに、なんだけど……副団長~?



 ローディアも毛深き胸のうちで問うたが、ルニエ老公は上品にゆっくり首を振っている。



「偶然と言う名の、女神様の御守護です。うちの沿岸警備隊がきゃつを領海内から追っ払いますから、心配は要りません。今の時間帯ならゼール副隊長がいるはず、そうですね?」



 最後の上品な問いは、背後に向けて放ったルニエ老公である。



「ええ。こちらの方には、巡回を呼んで現場保持をいたしますか?」



 ルニエ老公の後ろの闇、あまりに上品過ぎてカヘル達は気がつかなかったが、近衛と見られる騎士らが何人もいて、うち一人が老公にそっとたずねていた。紫紺の騎士外套が、夜に溶け込むようである。



「……それとも。内々にしておきましょうか、カヘル侯?」



 老公の上品な問いかけに、カヘルは鋭くうなづいた。



「負傷したのですか。プローメル侯?」



 びしっとした中に心配を含むファイーの声を聞いて、副団長ははっと振り返る。プローメルが屈みこんで、左膝の上あたりを押さえ込んでいた。



「ええ。向こうの射撃がかすりました」


「あかん、けっこう深い……すぐ処置せんと」



 獅子頭の術士帽をすばやく押し上げ、人のさそうな顔をプローメルの怪我に近づけながらファランボ理術士が言った。そこにマグ・イーレ王もすっと入ってくる。



「じゃあもう皆さん、まとめてお店に戻りましょう! 明るいところで、怪我の治療を!」



 オーラン騎士らの上品な肩を借りたプローメルを囲むようにして、一同は緑地の先にある小さな店へと足を向けた。



「そうしてなるべく全部、話してもらえますか?」



 低いながらも鋭い声にて問うてくるランダルに、カヘルはうなづくしかできない。






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