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カヘル一行、東へ発つ

 

・ ・ ・ ・ ・



 眠月じゅういちがつ十一日の朝。灰色の空の下を、カヘル以下の六騎はマグ・イーレに向けてった。


 冬の始まり、軍馬の首にかかる息が湯気のように白い。いつも通りに黄土色外套をまとったデリアド騎士たちは、加えて首巻に革手袋と、それなりの防寒装備にてイリー街道を東にゆく。


 先頭にカヘル直属部下のバンクラーナとプローメル、中心にカヘルとファイー、そして最後尾しんがりを行くのは側近騎士のローディアと衛生文官ノスコである。


 砂色、褐色に冬枯れの始まった野を抜けるイリー本街道は幅広いが、交通量も多い。すれ違う農家や業者の荷馬車をけよけ、一行は言葉少なに前方を見つめて軍馬を御す。


 カヘルは時折、左横にすばやく視線を投げる。これまで、事件捜査に向かう道中では女性文官と話すことも多かったが、今回さすがにファイーは無口であった。


 カヘルが叔母ニアヴから預かった戦没者名簿の中には、確かに三名のデリアド親縁者が載っていた。デリアド在住のその遺族らにカヘルは内々の連絡を入れたが、故人を知るのは年輩者ばかり。甥やいとこ甥・・・・の遺骨を迎えに行きたいのはやまやまだが、はるか遠方のテルポシエまで、この時季の長旅を自身が耐えられそうにない……と彼らは残念そうに頭を振った。


 いずれの故人についても、マグ・イーレ本国から近縁者がテルポシエへ探索に赴くのだから、強要はしない。カヘルは同行できないデリアド側の遺族らに、自分が代表して迎えに行くと告げた。よって、実際の遺族としてデリアドからテルポシエへ遺骨収集に出向くのは、ファイーのみである。



「……いつもの公用馬と、勝手が違うと思いますが。ファイー侯?」



 カヘルはそっと、左横に声をかけた。


 黄土色のデリアド騎士作業衣。頭の後ろに皮製防寒防水の頭巾を落として、女性文官はいつも通り、びしりと伸ばした背筋で白い軍馬を御している。そのファイーが、すいっとカヘルを見返した。



「ええ。大丈夫ですよ、カヘル侯」



 先日、連絡に行った時の動揺をみじんも感じさせない落ち着きようで、ザイーヴ・ニ・ファイーは答えた。それにうなづいて、カヘルは再び前を見る。



「……こうして見ていると、(二人とも)全ッ然変わっていないように見えるんですけれども~??」


「いや、それがね! 進行しているんだよ! と言うのもおおやけでないところでは、(副団長がファイーねえさんを)個人名で呼んでるっぽいんだ!」


「本当ですか!」



 ごしょごしょ、もじゃもじゃ。最後尾にやや離れてついてゆく側近ローディアと衛生文官ノスコは、囁き声に口ぱく・・・と念話も取り混ぜて、くっちゃべっている。ちなみに(かっこ内の部分)は、書いている人が注記しているだけで実際には発声されていない。



「何たって、(ファイーねえさんちに)およばれもしている。これはいよいよ(お付き合いの射程範囲内に)入って、秒読み段階なんだ……」



 もやし系の若き衛生文官は、両眉を寄せてローディアの口元をがん・・見しつつうなづいている。豊かな栗色のひげが邪魔で、側近騎士の口ぱくは少々読み取りにくいのだ。


 当たり前の話だが、デリアド副騎士団長は彼らにも誰にも、自分のファイー思慕を打ち明けてはいない。しかしその辺すべてお見通しの直属部下らは、上司が今度こそ幸せな結末を迎えられるよう、全力でもの言わぬ援助に徹しているのである! 特に毛深く、情もふかい側近騎士。


 ローディアは、十日ほど前の出来事を思い出していた……。



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