ファランボ理術アシスト
「ついでに言うたら、東の術は西の理術に勝ったためしもあらしまへん。そこの奥さんの妙なまやかしも、もーう効かしまへんでぇッッ」
ああ、西方ティルムン語のけんか腰! はんなりしてるだけに裏がこわい!
「こんなところで見境なく派手に術使うて、おっさん頭どんだけ悪いねん! 何も知らん他人さまに見られてひきつけ起こされても、理術は責任とらへんのやでッ。悪人は悪人らしう、とっとと杣のぶぶ漬けあがってお帰りよしッッ、ほうきがないから杖に手ぬぐい引っかけたろか!」
つかつかつか……。ものすごい早口で謎の悪態をまくしたてながら、マグ・イーレ理術士隊長ファランボはカヘルの背後に歩み寄ってきた。転じて低く問う。
「大丈夫おすか。カヘル侯」
カヘルは理術士に、くっとうなづいて見せる。何故ここにファランボ理術士がいるのかははかり知れぬが、ともかく助けられた!
「あの理術士、ベアルサとは私が何とか拮抗しますよって。とにかく他のの制圧をお願いします」
「はい」
ぎ、ぐわんッ!
カヘルたちの前方に広がる光の泡、半球の理術≪防御壁≫が揺れひびいた。
すけて見える金の光のその向こう、ベアルサが杖を高く掲げている。彼の周りの一味を包むように、さらに大きな別の泡が輝いていた。
「我らを隔てる壁となれ……。 なめくさってんじゃねぇよ、脱走兵が」
「自分こそ危ないもぐりのおっさんが、何言うてはんのや。高みより高みより いざ集え……」
ベアルサとファランボ、両者の繰り出す≪防御壁≫が、ぐりぐり・じりじりと押し合いを開始する。
――しかしこの状態から、どう切り込めば良い……? 理術の≪防御壁≫に対して我々の直接攻撃は意味をなさぬ。前回のようにディンジーさんの≪声音≫が加わらねば、突破は難しいのではないか!
「これより切り替えます」
カヘルの内心の声を聞いたかのような頃合で、ファランボが低く言った。早口詠唱をとぎれなく続けるその呼吸のあいまに、理術士はデリアド騎士三人に向けて指揮をも放つ。
「集い来たりて 悪しき物の怪を撃つ 我らがもののふの 刃を鏃を礫をささえよ――――カヘル侯、皆さん、行てまえぇぇぇッッ」
ローディアは、自分の長剣が白く発光し始めたのを見てぎょっとする。
「正面攻撃、捕縛対象ッ」
しかし続くカヘルの声に、毛深き側近はすぐさま反応した! こちら側の光の泡が消滅し、ベアルサの顔が膜ひとえの向こうにはっきりと見える。
じゅわぁぁぁん!
ローディアの渾身の打ち下ろしが、ベアルサの光の膜に切り入った。長剣の切先が、身を引いた敵理術士の肩をかすめる。
「ふんッ」
続いてのカヘル打席!
白く輝くいぼいぼ戦棍が、ぶいぶいと光る泡を裂くようにベアルサを攻めてゆく。連打だ! 危なっかしいところでそれをかわしながら、敵理術士は徐々に後退していった。
ひゅいっ……!
「ぬっ!?」
迫った気配を察知して、プローメルは渋く身体を左に移した。きいん! 手中の中剣、その半ばほどに矢が擦れる。
ベアルサの後方、かなり離れて波止場まで退いていた一味の者たちが、射撃してきたらしい。
ひゅい、……ひゅい!
さほど風圧のないところを見ると、小弓のたぐいである。
ぷわっ!
ローディアに向かって放たれた一矢は、瞬時に出現した光の泡によって阻害され地に落ちた。しかしすぐに泡は消え失せる、
「くーっ。ひとり何役の器用できるほど、私もうつわ広くないよってッッ。いざ来たれ 群れなし天駆ける光の粒よ、……」
ファランボが、いっぱいいっぱいのところで攻撃援護と防御とを交互に詠唱しているのだ。恒常的な≪防御壁≫のないカヘル側は、その射撃によって次第に牽制され、ベアルサはぐっと間を広げた。とその時、ベアルサの前の光の泡がふいに消滅する。
「いざ来たれ 群れなし天駆ける光の粒よ、高みより高みよりいざ集え 集い来たりて 我が敵を、薄闇の眷族を撃て!!」
かッ、とカヘル頭上が明るくなった。
「なッッ……、こんなところで! お前、人間あいてやぞぉぉぉっ!?」
ファランボの絶叫に驚愕がまじったが、カヘルの耳には届かなかった……空を見上げる副団長の青き目に、信じられぬほどに赫い炎のかたまりが映っている。
「後悔して派手に死ねやぁぁぁ、若僧カヘル!!」
ベアルサの高笑いとともに、天から降り来る巨大な炎の奔流が、デリアド副騎士団長をめざして落ちてきた……。業火がカヘルの身を焼きつくしに迫ったのである、しかしその時!




