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今日ものってるバンクラーナのプロファイリング

 

「物品からわかる手がかりは、何もありませんでしたッ」


「ええっ、そんなどや顔で! バンクラーナ侯ぉ!?」


「何だとぉッ」



 突込みかけるローディアとプローメルを片手ですいっと制すると、鑑定おた……ごほん、鑑定の専門家は続ける。



「一見ほんとうに、何も特筆すべきところを持たないように演出してある。彼は自分の素性を、あくまで隠しているんです。内に着ていたものは全て地元の量産品、外套なんてご丁寧に四・五年前のテルポシエ市民の流行型。それも墨染すみぞめの安物を選んで、地元テルポシエのイリー庶民に変装・・していました。恐らくはその外套が流行していた時期以降に、一般人のふりをして国境を越え、テルポシエに潜入を繰り返していたんじゃないでしょうか」



 バンクラーナは、すらすら見解を述べてみせた。対してカヘルはぐっとうなづく。



「ふむ。男性の国籍までは、わかりませんでしたか?」


「残念ながら、カヘル侯。しかし恐らくはガーティンローです」



 みすぼらしい恰好を決め込んでいた男性だったが、唯一小さな装飾品を所持していた。細い鎖の先に、ごく小さな赤い七宝細工を通したものを、首にかけていたと言う。



「ああ、あの首飾りですか? 銘とか入らないくらい、小っさいのでしたけど」



 それこそ小指の先くらい、と自分の指先を触りながら、やはり実物を見ていたノスコが言う。



「貴石もついていなかったし、価値のあるものではなさそうでしたが。あのぱっとした赤色の出し方は、どう見たってガーティンローの飾り職人の仕事です。変装するのに結婚指輪も外すような人物が、肌身離さず持っていたということは、大事な人間の形見か何かだったのでしょう。その人がガーティンロー人だったのか。あるいは男性自身ガーティンロー出身なのかまでは、不明ですが」


「ああ、そうか。そう言えば左手薬指に、指輪の跡があったんでしたー」



 ノスコがうなづいている。



「私は全然、気に留めていなかったのですが。そうか、バンクラーナ侯の視点から見ると、そういう人物像の手がかりになるんですね!」


「そうそう。なので男性は五十歳代の既婚男性。恋女房あるいは恐妻のある人です」



 バンクラーナの言葉の後半部分に、他の五人はいっせいに首をかしげた。



「恋女房か恐妻って……何だそりゃ?」



 カヘル直属部下どうしの長い付き合い。二人組んでの別行動を任されることも多い相棒ではあるが、プローメルはバンクラーナの発言に、うさん臭さ満載の視線を向けた。



「秘密の任務、敵地テルポシエ潜入という特別な行動をとる時以外は、結婚指輪を外さない。死んでずいぶん時間が経つのに、あんなに指がでこぼこするほど跡がつきっぱなしだったのは、体型が変わって合わなくなるくらい長い年月を経て着用していたからです。奥さんに長く縛られていたことは、容易に想像できます。よって恋女房の線があるのです」



 家庭内別居の仮面夫婦で、惰性のままに指輪をつけていた可能性もあるのでは、と短い実体験をもとにカヘルは思った。しかしもちろん、口に出さずにおく。



「あのう~、バンクラーナ侯。きょうさいと言うのは……、おそろしい奥さまと言う意味で……??」



 こわい口まわりのひげをもしゃつかせつつ、ローディアがこわごわと尋ねた。



「そっちに関しては、耳と鼻の穴が問題なのです。えーと、ファイー侯には汚い話で恐縮ですが……」


「本官にどうぞお構いなく」



 ぴしりと言うファイーにうなづいてから、バンクラーナは淡々と語った。



「五十代も後半。あの男性くらいの年齢になると、我々イリー男性は一般的に、耳と鼻の毛が穴の中でことのほか繁茂・・します。身だしなみに気をつけている人なら、鼻の方は自力で何とかする。あの男性死体の鼻毛は、ちゃんと整えられていた印象がありました」



 バンクラーナの横で、プローメルが長い鼻にしわを寄せた。渋がっていてもいまだ三十代の彼には、まだまだ遠い未来の話である。



「しかし一方で、耳毛の方はだいぶもっさり飛び出ていた。奥さんが気付いたならば、はさみ処理を頼めるでしょうが、気づいてもらえていないのか。あるいは刈って欲しくても、怖くて頼むことができないのか! その辺をくみ取りまして、恐妻家かもしれないと私は踏んだのです!」



 くわッと切れ長双眸を見開いて、バンクラーナは堂々と言い切った!



「すごい、バンクラーナ侯! 目のつけどころが、私と全ッ然ちがい過ぎるッ」


「と言うか、どういう眼力してるんだ?」


「知らなかった……。あとで伯父の耳をのぞいてみます」



 ノスコ、プローメル、ファイーが三者三様の反応を見せる傍ら、ローディアはだいぶ独自路線の人物像再構成だな、と思っていた。



「……バンクラーナ侯。男性のつけていた、その首飾りですが」



 騎士外套の内側隠しから取り出したものを手に、カヘルが冷やっこく言う。



「これと一対になるものではありませんでしたか?」


「ああッッ」



 カヘルの手中をのぞきこんだノスコとバンクラーナが、小さく叫んだ。



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