カヘル、秘密裡の決意
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テルポシエ大市近郊のシュターン村では、天幕内に軽食が用意されていた。
先ほど献花を持って調査団一行についてきた地元の年輩女性らが、白湯と乾燥果実の入ったぱん、乳蘇などを給仕してくれる。もとをたどればエノ軍の提供なのだろうが、見かけはいかにも地元住民の好意、という風だ。わざとそう演出してあることは、カヘルにも良くわかった。マグ・イーレ遺族たちの中にも、文句を言う者など皆無である。実際、すきっ腹に美味なものばかりだった。
そこで短く休憩した後、マグ・イーレ遺骨調査団は預けておいた軍馬に騎乗して、オーランへの帰路をとる。朝と同じく、エノ軍幹部とテルポシエ巡回騎士らに国境まで見送られた。
オーラン領に入り、そこで待ち構えていたマグ・イーレ騎士隊と合流する。
混成軍駐屯基地に向かって少し西進したのち、カヘルは先頭をゆくミガロ侯に並んで、テルポシエでの経過を伝えた。
遺骨収集の成果は大きかった、と言える。五体分の骨は全て身元が判明し、遺族の同意を得て明日現地火葬することになった。残る遺族の約三分の一が、縁者ゆかりの持ち物を見つけてもいた。しかし……。
「……遺品の安置場所に、死体が?」
驚くマグ・イーレ副騎士団長ミガロに、カヘルはテルポシエ側の見解を伝えた。事件性のない事故あるいは急病死であり、亡くなったのは不幸にも行き倒れた一般人だったのだろう、と。
「しかし、カヘル侯……。貴侯はデリアドにて、数々の殺人事件捜査をなさってきた方です。そのカヘル侯の視点においても、不審なところのない行き倒れだったと言われるのですか?」
ミガロ侯は、カヘルに疑問をまっすぐぶつけてきた。マグ・イーレの次期騎士団長は、カヘルと違っておおらか素直、真っ正直な印象の人である。
「確かに、場所がらを見れば突飛な亡くなりようです。しかしテルポシエ側の主張にも筋は通っていますから、あえてここで異論を唱えるのは避けたいと私は思います」
冷々淡々、ミガロ侯に平らかに答えはしたが、カヘルは異論を唱える気満々でいた。もちろん秘密裡にである。
マグ・イーレ騎士らにも、混成イリー軍にも明らかにするつもりはない。なぜなら、ドルメンの中で死んでいた男性はカヘルの野望を知っていた。
自分が叔母ニアヴに加担して、将来的に統一イリー国家を構築すること……。場合によっては、それを併合や侵略と取る者も出るだろう。そういう危険性をはらむ大計画を、死者は知っていたのだ。
そのような人物が、不審死を遂げた。カヘルはこの謎を解き明かし、男性の死から自分と叔母ニアヴに不利な弊害がもたらされるのを、何としても阻止せねばならない。
カヘルは男性に渡された、布片の文言を思い出していた。それは今も、カヘルの毛織衣隠しの奥にある。
≪西側諸国に有益となる、東への道をご案内できます≫
デリアド副騎士団長の野望を深く知っていると、ごく短い文に十分に匂わせ、男性はカヘルに何を提案するつもりだったのだろうか?




