ドルメン外側調査、ランダル王の溜息
一歩遅れて、カヘルはドルメンの外に出る。松明の灯りをじッと消して、ファイーは陽光の下で少し目を細めていた。
眠月の半ば、うすら寒い弱々しさであっても日の光である。それだけ、ドルメンの中の闇が濃かったのだとカヘルは思った。
やがて、巨大な卓子を構成する支え部分の石に手を添わせながら、ドルメンの外側にそってファイーは歩き出す。
「今回、測量はしないのですか? ファイー侯」
すぐそばを歩きつつ、カヘルは問う。
「ええ、しません。地元テルポシエ史書家による測量結果が記録されているはずですし、今回の学術調査はパンダル先生の担当です。遺族の本官が巻き尺測量をしても、テルポシエ巡回騎士やエノ傭兵たちに変に思われてしまうでしょうから。……おやっ?」
ドルメンの裏側にまわろうとして、ファイーは立ち止まる。
先ほど内側にいた時ファイーが言ったように、ドルメンの奥側部分はそのまま丘の斜面に続いていた。勾配はだいぶ激しい。
しかし、ドルメンと丘のそのつなぎの部分が、ファイーにとっても意外だったらしい。それは巨大な石……岩と呼べるものだった。
「……もっと薄い、板状の石を予想していたのに。これはすごい、本当に丘につながっている」
「ここだけ、自然の岩盤を利用したようにも見えますね」
岩盤はカヘルの背よりずっと高い。よじ登るようなことはせず、二人は歩いて反対側へとまわる。そこではロランが、地面に膝をつく姿勢で筆記板を構えていた。
ふいと二人に目礼をしただけで、ロランはすぐに手を動かし始める。板の上の筆記布には、ごく簡単なドルメンの素描があり、その周りが字で埋められつつある。
数歩離れたところにランダル王と護衛のブランが立って、一見するとランダルの口述をロランが筆記しているような雰囲気だった。遠目に監視の目を走らせているテルポシエの巡回騎士らには、確かにそんな風に見えるだろう。
しかしカヘルは見抜いていた……。ぼそぼそと呟いているようなランダルは、唇を動かすだけで実は何も言っていない。幅広い帽子のつばの下から、じっと墓所の入り口方面をうかがっているようなのだ。
カヘルは何気ない風を装って、ランダルの視線の先を見る。墓石の寄り集まるテルポシエ市民墓所を通り越して、入り口そばにある小屋を、王は見守っているらしかった。
――なぜ、安置所を……?
カヘルとランダルの見つめる先、その安置所の小屋の扉が開いて、中からばたばたと人が出てきた。
墨染上衣を着たエノ傭兵と、草色外套のテルポシエ巡回騎士が数人ずつ。その中にひょろりと長細い影があった。医師の着るような黒い外套を着ている。その一団はさっさと東市門に通じる細道の方へ行ってしまって、次に黄土色外套の二人が小屋から出てきた。カヘル直属部下のバンクラーナと衛生文官ノスコが、墓所を横切ってこちらに歩いて来る。
「カヘル侯。エノ軍医への引き継ぎが終わりました。遺体は今後このまま、小屋に安置するそうです」
やがてカヘルの前にたどり着いたノスコに言われ、やはりさっき見たのはエノ軍の医師だったのだな、とカヘルはうなづく。
ごうん……。
テルポシエ市内から、低く時鐘が響いてきた。ドルメン入り口にいたマグ・イーレ文官が、はっとする。
「ああ、午後二つですね。本日分の調査の、終了時刻です」
ローディアも、ドルメンからもさもさと出てきた。毛深い両手いっぱいに、細かい革片のようなものを持っている。
「けっこう、小さい取りこぼしがありました……こんなにたくさん。これも全部、天幕内に置いて行って良いんでしょうか?」
「ええ、そのはずです」
「……行きましょう、へい……ごほん。パンダル先生ー?」
マグ・イーレ文官騎士たちの呼びかけに、深いため息が応えたようだった。
カヘルの耳にもしっかり溜息だとわかるほどの息をついて、ランダル王はふいとこちらを向く。その時ランダルはついっと右手を上げて、つば広帽子をさらに深く下げたものだから、カヘルに王の表情はわからなかった。
うすら寒い眠月の空の下、カヘルたちは天幕へ足を向けた。
≪死者の哀しみの家≫、巨大なドルメンを後にして。




