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ドルメン

 

・ ・ ・ ・ ・



「先ほども述べました通り。戦闘後に回収したマグ・イーレ軍側の武具や装備品のたぐいは、全てこの岩家いわやの中に集めて安置しました。大量にあるので、判別には時間がかかると思いますが……」



 少々声を張り上げるパスクアの背後で、ウーディクと草色外套のテルポシエ巡回騎士らが、錠を解いているらしい。その岩家いわやの入り口部分、鎖を巻いて巨石に固定してあった鉄柵を三人がかりで持ち上げて、脇にずらしていった。


 カヘルは遺族たちの後方から、この奇妙過ぎる建造物……≪巨石記念物≫を見つめている。



――数基の巨石を箱型に配して、さらに広大な平たい岩が上にのっている。何なのだ、これは? まるで、卓子のようではないか。



 エノ軍経理関連責任者は、これを≪岩家いわや≫と呼んだ。たしかに構造だけ見れば、単純なつくりの家にも見える。三方に壁があり、雨露をしのぐ天井屋根があるのだから。



「向こうの天幕には、卓子や簡単な用具も準備してあるので、そちらへ運び込んで作業をして下さい。我々は近くで待機しておりますので、用向きの際はいつでも遠慮なく言って下さい。――どうぞ」



 パスクアの『どうぞ』とともに、作業開始である。十数人の遺族たちは、≪岩家≫へと近寄っていった。


 大きさとしては、農家の納屋くらいのものだろうか。大人でも七、八人の入れそうな空間が中にあるらしい。その中の暗がりに、うず高く長剣や中弓の類が積まれているのが、後方にいるカヘルにもかすかに見える。


 遺族たちはマグ・イーレ文官に指示されて、すでに分担作業を組織し出していた。比較的若い者が内部に入る。軍用手袋、すなわち軍手をはめて品々を手にしていく。取り出されたそれらの遺品は、外にいる残りの遺族たちの手を介して、次々に天幕の中へと運ばれて行った。


 当たり前と言おうか、デリアド騎士作業衣のザイーヴ・ニ・ファイーは岩家の中に入って、てきぱきと遺品を外の者に手渡している。先ほど合わせた視線の先にあった、カヘルにすがりつくかのような恐怖の表情はどこにもない。


 研究対象≪巨石記念物≫の中で作業をし、これを調査・・と割り切ることで、ファイーは故人との再会の衝撃に備えているのかもしれない……、とカヘルは推測する。



 その作業には加わらず、カヘルとその配下のデリアド勢は、数歩下がったところで横一列に並んでいた。監査役として、作業見守り実践中である。


 全体像を把握するつもりで、現場の岩家いわやをカヘルはじっと見つめた。


 こちら側、東に向かって扉を開けた状態のその石の家の後部は、丘に直につながっているらしい。斜面の急な勾配が、すぐそこに迫っている。見上げる丘を母屋とすれば、岩家いわやはその玄関口……。あるいはイリーの屋敷で言うところの、玄関小広間のようなものなのかもしれない。丘と一緒に引っくるめてみれば、何となくどこかで見たような作りだった。カヘルは自身の既視感をたぐる。



――ああ。西域レイフェリー郡、≪はじめの町≫の近くでザイーヴさんが発見した、石ころ丘≪積石塚ケルン≫に似ているのだ。あそこの入り口部分が、ちょうどこの岩家いわやのように開いていたではないか……。そこでは扉部分に大きな黒石が詰まって、通せんぼをしていたが。



「ごつごつした岩肌の中にあって、自然のものに擬態・・している風にも見えるが……」


「……そうだね。これはまちがいなく、人工物だ」



 カヘルのななめ手前、やはり作業の中心からは控えめに離れて立っていたランダルとロランが、ぼそぼそと顔を寄せて囁き合っている。


 学術的話題なら誰に聞かれても特に支障はなかろうと思い、カヘルは二人の背後から低く冷やっこく問うてみた。



「先生。この巨石記念物は、いったい何なのですか?」



 そうっとカヘルを振り返るランダルの双眸が、つばの広い帽子の下できらりと光る。



「これは、≪ドルメン≫と呼ばれる遺構です。カヘル侯」



 しわがれた、ぼそぼそ声が返ってきた。ランダル王は実に学者然としている。




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