カヘル、パスクアに出会う
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翌朝、一同は街道を東にたどり、やがてオーラン市からさほど離れていないテルポシエ国境前に来た。
護衛役のマグ・イーレ騎士隊が付き添えるのは、ここまでである。
「それでは諸侯、カヘル侯。どうかご無事で、よろしくお願いします」
文官騎士とカヘル一行に重々しく言い、ランダルに小さく目礼をして、ミガロ侯と騎士隊は国境オーラン側に整列して佇んだ。
幅広いイリー街道の東方、百歩ほど先には八騎が待ち構えている。マグ・イーレ文官騎士たちとともに先頭に出たカヘルを見て、そのうち二騎が近寄ってきた。
「福ある日を」
「……福ある日を」
まずは潮野方言と、正イリー語がぶつかる。しかし黒馬に乗った壮年の男は、ずいぶんと整ったテルポシエ抑揚のイリー語で次を続けた。
「マグ・イーレ遺骨調査団の皆さん、テルポシエへようこそ。長旅お疲れさまでした。私はエノ軍・経理関連責任者のパスクアです」
「および、補佐のウーディクです。ここから調査地まで、ご案内しまーす」
もう一人の男が、やたら面白い声で言う。背後にたたずむ六人が草色外套を着たテルポシエ巡回騎士の様相なのに対し、パスクア・ウーディクと名乗った二人は毛皮をあしらった異様な仕立ての革上衣を着ている。エノ軍の幹部とすぐ知れた。
むきむきもりもり、お仕着せ墨染衣のいかにも像なエノ傭兵ではない。少々典型を外したようなのを窓口世話役によこすところを見ると、蛮軍の中にもなかなか頭の回る者がいるらしい、とカヘルは冷たく思った。
――遺族や我々に対し、無駄な挑発を避けているということだ。
先頭をきって、そのエノ幹部の二騎がゆく。マグ・イーレ文官騎士、遺族の一団がそれに続いた。ランダル達とファイー、その伯父を囲む形で後方にカヘルと配下が進む後を、草色外套のテルポシエ巡回騎士らがついて来る。
誰も何も話さない。しめやかなところは、ちょうど葬送行列のようだった。死者を送りに行くのでなし、迎えにゆく行列ではあるけれども。
「……どうだ? ウーディク」
先頭をゆく、エノ軍経理関連責任者にして精鋭≪先行部隊長≫のパスクアは、研ぎ澄ました極濃の北部系なまりにて、隣のウーディクに囁く。
「大丈夫っすね。ほぼ全員が、事前提出名簿にのってる人物像と一致してます。一人だけいるティルムン系はほんもの理術士で、傭兵ぽいのはイリー人だった。女の人がひとりデリアド騎士にまぎれてるけど、姫ちゃんに似ても似つかねぇ大柄なおねえさんっすから、白ねこの変装じゃない」
ウーディクも同様の抑揚で、もそもそと答える。イリー人には理解不可能な潮野方言、……どころかあんまり濃すぎて、別地方出身の東部ブリージ系でもさっぱり聞き取れない話し方だ。
白ねことは、すなわち≪白き牝獅子≫グラーニャ・エル・シエをさす彼らの隠語である。エノ軍幹部は九年前の陽動作戦で、敵軍将が城内へ忍び込んで来たことを忘れず、今回も警戒しているのだった。
「そのデリアド騎士と一緒に、帽子かぶったおっさんと、しょぼくれたのが二人いたな。あれが民間識者ってやつだろう」
「そっすね。にしてもパスクアさん、デリアド副騎士団長って、あの坊ちゃんぽいやつでしょ? すんげえもじゃもじゃしたのの前にいた……」
丸みを帯びた三白眼は喜怒哀楽、および四季を通しておもしろく見えるのだが、この男ウーディクは実は主力部隊所属、猛禽視力の魔眼射手である。ごくわずかな一瞥で、マグ・イーレ遺骨調査団の全要員を識別してしまっていた。
「だね。お前より若いのと違うかな」
「……あれは、将来はげるっすよ。いい気になって後ろへ撫でつけてられんのも、あと五年がいいとこだ」
「……もっと有益な情報を取れ」
自身も後退しまくりの元二枚目、エノ軍幹部のパスクアは、どすを利かせてウーディクをにらんだ。




