謎の男のコンタクト
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カヘル一行は、デリアド駐屯騎士の居住する棟に宿泊を割り当てられた。なぜだかそこに、ランダル・ロラン・ブランの三人組も一緒である。
「明朝より三日の間、ここオーランからテルポシエへ通い、遺骨と遺品を収集するわけですね……!」
さすがにここの宿泊では、ランダル王も夜会は催さないらしい。宿舎入り口まぎわの長床几で、カヘルとブランに挟まれたランダルはぼそぼそと低い声で話している。カヘルも冷々とたずねた。
「先生は日中、調査団に同行されると聞いていますが?」
「基本的にはその通りです、カヘル侯。あくまで民間の歴史学者が立ち会っている、という形ですからね……。そこはどうか、よろしくお願いします」
鎧を脱いで麻衣に毛織姿、肩に手拭いを引っかけた副団長は、マグ・イーレ王に向かってうなづいた。
ミガロ侯率いるマグ・イーレの騎士隊は、以降テルポシエまでは旅程に参加できない。友好平和的活動の一環であるからして、軍が領内へ入るのは遠慮してくれるように、とテルポシエ側からはっきりと依頼されていた。その先は文官が遺族らを引率、カヘル達は第三者の監査役として同行するのだ。
その、いわば部外者たるデリアド副騎士団長のそばにいるのが、≪民間の学者≫にとっては一番安全なのである。
ランダルがここまでついてきた理由はいまだわからないが、とにかく叔母ニアヴが肝入りで依頼してきたことだ。そつなく護衛しなければならない、とカヘルは思う。
「お先でした~」
つるっとさわやかな顔つきで、古書店主が洗い場から出てきた。
「やー、さすがオーラン。こんなところでお湯をいっぱい使えるなんて、幸せー」
「それじゃあ私の番ですね。ロランはもう、室に行って先に休んだら」
手拭いを握って、ランダル王は立ち上がる。それにすいと付き添っていったブランが、王の入った洗い場の出入口、ついたて板のかげに護衛然と立ったらしい。
長床几の上に、カヘルは一人になる。
駐屯デリアド騎士が、物品を持って正面出口から静かに出て行く。それと入れ替わるようにして、音もなく開いた扉から一人の男性が宿舎に入って来た。
その男性が、壁際にかけたカヘルを正面からじっと見る。目礼をしてあたりを素早く見回し、少々離れた洗い場出入口にブランがいるのを、男性は確認したらしかった。
すたすた真っ直ぐカヘルの前に来たかと思うと、お辞儀をしてかがめたままの姿勢で話しかけてくる。
「侯にお伝えしたいことがあります」
「はい?」
事務連絡に来たオーランの伝令騎士、としか思わなかったカヘルは、何気なく冷えびえと答えた。
「こちらを……。あす夜に改めて伺いますので、詳しい話はその際に」
小さな布巻きを渡されて、ふとカヘルは不審を感じる。
「貴侯と、叔母さまの益になることです。ぜひ、ご一考を」
ぎーん!!
その一言に、カヘルは冷徹なる青い視線を見張る。しかし怯むことなく、男性は見返してきた。
どよりと濁ったような瞳が、狡猾さを含んでうすく笑っている。
くるりと身を翻すと、入って来た時と同様に音なくすばやく、扉を開けて男性は出て行ってしまった。
――??
年の頃は六十代……五十代の終わりだろうか。外套を着ずに、男性は毛織の短衣姿であった。
――あれはいずこの騎士衣だろう。オーラン……にしては、派手めな光沢だ。ガーティンロー? 私と叔母上の益、だと……?
「副団長、お待たせしましたー」
もじゃもじゃとした気配が迫るのを感じ、カヘルは手中の布巻きをとりあえず隠しの中に入れる。
裏手にある給湯室から、ローディアが湯のみを手に出てきたのだった。
「どうぞ、薬湯です。だいぶ濃いめに淹れました!」
「ありがとう、ローディア侯」
ずずー、厚手の軍用ゆのみの中の褐色の液体を、カヘルは年寄りくさくすすった。
無作法なのは百も承知なのだが、嗜好の飲みものの香湯と異なり、健康効果の高い薬湯はすなわち煎じ薬。できるだけ不味そうに、じじむさく飲むべしと言う教えがデリアドにまかり通っているのである。
「……」
確かに濃ゆいが、そこまでまずいものではない。これを飲んで沐浴の後に横になれば、比較的安易に入眠できるのだ。そう、カヘルでも。
最近の出張では筆記具にあわせて、ローディアに携帯してもらっている副団長なのである。
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【カヘル安眠ブレンド湯】
☆香水山薄荷(メリッサ、レモンバーム)
☆かみつれ(ジャーマンカモミール)
☆ういきょう種(=フェンネルシード)
☆菩提樹皮(リンデンバウム)
☆美女桜(=バーベナ)
→以上を各小さじ一杯ほど、200mlの杯にて熱湯で4分抽出。有機栽培のものを推奨。
夕方に一杯、夕食後に一杯飲むことでさらに追い打ち相乗効果、カヘルに金棒。
人体実験をして試したのは作者だけなので、効果に関する個人差ははかり知れません。
(注:ササタベーナ。やっとコージーミステリーっぽく、レシピを載せられましたね~♪)




