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副団長の破壊的寝起き全貌

 

 この地、オーランのイリー混成軍駐屯基地に前回来た時のことを思い出して、側近騎士ローディアはぶる・もじゃっと毛深い体躯を震わせた。



――この世の中に、あんなに寝起きの怖い・・人がいるってこと! みんな、信じないだろうなぁ~!!



 軍用天幕に置かれた簡易寝台の中、ローディアは自前の毛および毛布ねぶくろにもじゃもじゃとくるまって、作戦展開中の前線ながら温かく眠っていた。天幕反対側の寝台にのびている副団長のことなんて、てんで気にならない。同様に軍用ねぶくろに入り、でっかいいも虫がさなぎになったような姿で、カヘルは音もなく就寝していたからである。


 しかし翌・早朝、側近騎士は耳慣れぬ妙な声で目を覚ました。はじめは夢だと思った(悪夢だ)、しかし耳脇の厚い毛を通して、真実味のある声がローディアに聞こえてくるのである。


 それが何なのか理解した瞬間、ローディアはもじゃ・ぎくりと硬直かなしばりに捕らえられた。……カヘルがいつもよりずっと低ーい声で、呪詛・・をつぶやいているのである! 冗談ではなく事実、側近騎士が本当に聞いた怖い話!!


 恐怖で動けなくなったローディアは、副団長が自分ではなく、まくらを呪っているらしいことを聞き取った。そばがら軍用まくらが、カヘルは気に入らないらしいのだ。しかし、それをこき下ろす八つ当たり暴言が……。



≪■■■……■■■■、■……≫



 仮にもデリアド王室の血を引いている、名門カヘル家の若侯ともあろう者が! 耳を疑うようなおぞましい言葉づかいにて……まくらを呪っている!


 そばまくらと自分の睡眠と、ついでに拡げてカヘルは全世界の存亡をも呪っているのだ! それがどんな文言だったのか……ローディアは思い出すたび、泣きたくなる。ああ、詳しいことはとてもここには書けない! 記せない! 五部作を通してついた尊き皆さまの尊きしおり・・・が、一挙にはがれてしまう予感すらする。どんなのだ!


 やがて副団長は手洗いへ行くのか、ゆらーりと立って天幕を出て行った。その時、入り口垂れ幕を透かして曙光に照らされたカヘルの姿……。うっすら開けたローディアの目に、カヘルっぽい亡霊の姿が映った。全部おろした長い金色前髪の隙間から、青白い顔をのぞかせているさまは、まさに邪悪なる精霊そのもの……。何たる破壊力の光景であろうか。おお我らがイリー守護神・黒羽の女神よ、あわれなるもじゃもじゃ側近を護りたまへ! 筆記しているだけで冷やっこく呪われそうな、書いてる人をもついでに守りたまへ!


 数日を経て、それがカヘルの普通・・のお目覚めなのだと知れた時、ローディアは絶望の念にかられた。ひそかに相談したバンクラーナとプローメルも、頭を振る。二人はローディアよりずっと年上、カヘルとの付き合いも長いから知っていたらしい。



≪一人目と二人目と、奥さんがいた頃はまだましだったな。けど結婚する前と逃げられた後は、いつもああ・・だ≫


≪と言うか、あんな寝起きを見せられたんじゃ、誰だって逃げたくなりますよ!? 百年の恋だってさめて当然だ≫


≪栄えあるデリアド副騎士団長の肩書も、名門カヘル家の後光も引き留められんね≫


≪ううっ、どうしよう! あの寝起きを直さなきゃ、副団長は生涯独り身確定ですよ! かわいそう過ぎる、あんなまじめな良い人なのにッ≫


≪どういう方向の絶望してんだよ、ローディア侯≫



 もしゃもしゃ栗色髪の頭を抱え込んだ側近騎士に、プローメルが長い鼻にしわを寄せ、渋く突込みを入れた。


 あれから数か月……。半年以上が経った今、ローディアは絶望を希望に塗り替えているところである。


 最近、カヘルは朝に強くなった。朝型人間に変わったわけではない。しかし登城してすぐでも、あの寝起きの延長と思われる寒冷不機嫌前線を見ることがほとんどなくなった。通常仕様の冷えひえ淡々態度で、今日もよろしくローディア侯、と仕事を始めている。


 頃合を考えるに、絶対ファイーねえさんが好影響を与えているのだとローディアは推測していた。どういう作用なのだか知れないが。


 今までに見たどの女性よりも、かっこ良くて頼りになるあの地勢課文官騎士! ザイーヴ・ニ・ファイーを想うことでカヘルが自分自身を幸せに近づけているのなら、素晴らしいではないか。


 側近は、ファイーがカヘルを救ってくれると信じていた。だから早いところ、二人に仲良くなって欲しいのである。




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