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石になった十五人のお姫様feat.ファイー

 

「え~~っと、他にどなたか! 面白い話を知っている人は、いないですか? お話の種類や領域は、何でもいいですよ!」



 朗らかに見回すランダル王の視線が、ファイーの上でとまった。



「ファイー侯は、どうでしょう? デリアドのお話を聞いてみたいですね!」


「えっ、本官は……」



 遠慮しかけるファイーを見て、横のカヘルはふと思いついた。冷えひえ小声でそっと言ってみる。



「十五人の姫君の話はどうですか。ザイーヴさん」


環状列石クロムレクの伝承ですか? しかしカヘル侯、あれは……」


「リリアン君たちに受けたのですから、ここでも受けますよ」



 口をすぼめて一瞬思案したようだが、ファイーはカヘルにうなづいた。皆の注目を集めて腰掛の上にびしッと座り直し、香湯こうゆを一口ごくっと飲む。そうしてから、はっきり胸を張って語り始める。



「森深きデリアド北域に、ファイタ・モーンと言う名の沼があります。このまるい沼のみぎわ、半ば水の中に浸かるようにして、十五の石がまるく並び立っているのです。ひとの背丈以上もあるこれらの石の環、どうして十五基かと言いますと。実はもともと、十五人のお姫様であったからなのです。……」



 教師のようにわかりやすく滑らかな語り口で、ファイーは『環状列石クロムレクになった十五人のお姫様』を再話した。淀みなく慣れているようなのは、幾度となく子ども達に語っているからだろう。


 この話を知っているものは、誰もいないらしい。王も古書店主も護衛青年も、騎士達もへぇーと聞き入っている。


 カヘル自身は、平生と変わらない冷えひえな表情の裏で幸せ・・だった。≪環状列石クロムレク事件≫捜査の折に、地元の老女が軽快に語ったあの話が、いまファイーの声を借りてよみがえっている。お婆さんのちゃきちゃきしたつかみ・・・の良さはなかったが、代わりに低くみてくるファイーの声が、耳に心にここち良い。



「えええー!? 娘が石になっちゃったのを、何とか元に戻して~って、そういう方向じゃないんですかぁ?」


「人目にさらしたくない、つうのはまあわかる親心だがねぇ」


「魚に湖からの退去命令って、どう出すんですか。先生も出せるんですか?」


「できるわけないでしょッ、ブラン君っ。ロイちゃんの飼ってる金魚だって、私の言うことなんか聞きやしませんよッッ」


「そのデリアド宮廷の魔女って、非正規だったんですかね。派遣?」


「いや。それこそ時短、いぶし銀雇用だったのでは」


「魔法使いだけに、灰色かもしれません」



 平らかに大まじめに、ファイーの語るふざけまくった内容が受けていた。皆が賑やかに突込んでいる。


 カヘルも微妙に口角を上げていた。自分だけが気付いたファイーの創作挿入部分に、胸のうちで突込みを入れている。



――ザイーヴさん。遊ぶ姫君たちが木切れで浜の小石を撃ちまくると言うのは、これはもう完全に息子さんたちのために入れたのですね?



 以前カヘルがファイー家に行き、庭で≪千本打撃のっく≫をした際、沼ではどうやったのと小さなキリアン君がまとわりついてきたのである。何のことやらと聞いてみて、ようやくファイーが兄弟にあの環状列石クロムレクの話を語り聞かせてやっているのだ、とカヘルは理解した。幼い二人の、お気に入りの物語であるらしい。



「ふあ~、面白かった。環状列石クロムレクって舞台も珍しいけど、これだけ喜劇になっちゃってる悲劇もあんまりないですねぇ!」


「ファイー侯、ありがとうございました。では夜も更けてきたし、次でそろそろ最後のひとつにしましょうか……。おっ、ファランボさん!?」



 ランダル王に向けて控えめに手を振った理術士が、少しはにかむように笑っている。



「あのー。えらい面白い話のあとで何なんですが、今のファイー侯の物語を聞いて、思い出した話がありましてん」





〇 〇 〇


副店長「ファイー侯の語り口と全然ちがうが、元ねたはここのエピソード! 気に入ったら本編も読んでみてください!」

料理人「ついでに、うちの店にも食べに来てくださ~い」


「冷えひえカヘル侯の巨石事件簿(二)恋と戦慄のクロムレク/環状列石」

第24話『石になった十五人のお姫さま』

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