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還ってきた! ぷよ文官騎士

 

「ベッカさんの席、そこです。座って座って」


「あ、そうなの? ブラン君。それではお隣失礼します、カヘル侯」



 またしてもブラン青年が自然体すぎる声をかけてきて、文官騎士ベッカ・ナ・フリガンはそれまで不自然に空けてあった、カヘル左脇の空席にすとん・ぷよん、と落ち着く。青年が水差しから杯に注いでいる。



「今、肉ぱん誰かが持ってきます。ゾフィ姉ちゃんとリブちゃん、元気ですか?」


「相変わらずだよー」



 どういうわけなのだか、ぷよ・ひょろとちぐはぐな組み合わせのこの二人は、やたら仲が良いらしい。卓子の反対側から、ランダルが身を乗り出して言った。



「カヘル侯。ここにいる面々には、皆根回し・・・ができています。機密うんぬんに気を遣う必要はありません…… えーと、カオーヴ老侯だけは想定外でしたけど。そういうことで口外無用ですよ、老侯~?」



 まじめに言いかけて、王は途中でファイーの伯父に気付いたらしい。女性文官の横で咀嚼している老人に、ランダルはうなづきかけるように顔を向けた。



ほがっ。承知ひょうちいたしました、陛下」



 主君の命令も大事だが、自分の年齢もしっかり自覚しているカオーヴ老侯は、口をすぼめ気味に返答した。咀嚼途中でなにかを喉に引っかけては、姪ほか周囲に多大な迷惑がかかってしまう。



「はい、結構。……と言うわけで、こちら。五年前にガーティンロー騎士団長の特命を受けて、東部大半島へ調査に行ってきたフリガン侯です。彼の持ち帰った結果報告が、一部イリー諸国幹部に共有されているはずなんですが。カヘル侯も知っていますね?」


「はい」



 新生テルポシエの現元首、エノ軍首領のメインという人物は、≪精霊使い≫という特異な存在である。この世の存在ならぬ精霊どもをその支配下におき、彼らの持つ得意な能力を思うがままに使役できると言われている。そのメインの放つ精霊からの攻撃損害を回避するため、イリー同盟諸国はその背景を調べて理解しようとしていた。それが数年前の話である。ここに重要資料としてもたらされていたのが、フリガン侯の実地調査報告なのだ。


 そこに加えてカヘルは、ベッカ・ナ・フリガンから直接の情報提供をも受けていた。


 二年前、デリアド領内≪銀の浜≫にエノ傭兵の遺体が流れ着いたことがある。ガーティンロー市職員としてこれを聞き知ったフリガン侯は、事件の特異性に着眼し、みずから解決した過去の殺人事件に照らし合わせて、カヘルに注意喚起の書簡を送ってくれていた。


 以降フリガンとカヘルとは、イリー共通の敵にまつわる情報や意見交換を、ぼつぼつと続ける間柄なのである。



「フリガン侯は、ガーティロ―騎士団長ガーネラ侯ともつながりはありますが、基本的に市庁舎勤務の文官という立場です。軍属の騎士とは、全く異なる視点と考察観を持っている。その意味で我々としては、彼を東部に関する有識者、ご意見番として見ているわけなのですが」



「ええっ、そんな大したものじゃないです、陛下。僕はただ、最近のデリアド領内で起こった諸事件が気になっているのでして……」



 ベッカ・ナ・フリガンは、はにかんだような苦笑を浮かべた。無理やり貫禄を出したくて生やしたような若いひげが、丸いあごの上で揺れている。ぷよッ。



「我々のかかわった事件、……巨石にまつわる事件ですね?」



 淡々と問うカヘルにうなづいたフリガンの双眸は、静かなるも真剣である。



「ええ。裏で暗躍しているらしき、謎の東部組織の話を聞きました。同様の工作員が、ガーティンロー社会にも既に深く入りこんでいるのではないか、と僕には思えるのです」



 運ばれてきた肉ぱんに、ふしゅ~と刃を入れて食べつつ、フリガンはカヘルに要領よく話していった。


 彼はカヘルのように、地方の事件に関わることはできない。しかし中央にいる者として、ガーティンロー領内の時事は全て網羅している。


 大事に至らなかった誘拐未遂事件、窃盗団、詐欺……。絶え間なく発生する犯罪の陰に、東部組織≪蛇軍≫の関与を疑うことが多くなってきた、と言う。



「ファダンやオーランでも、同様の傾向が確認されていますね」



 温野菜ともども、きれいに平らげた皿を前にしてカヘルは腕を組んだ。


 在野の視点を重視しているカヘルとしては、フリガンの話は事実に即していて興味深い。特にデリアド宮廷へ届けられるガーティンローからの公式書簡は、常に体面見栄っ張りの表現ばかりだった。ここへ来てようやく、フリガンの口から現実が聞けたとも感じている。



「それとですね、カヘル侯。……これは、信頼できる現地すじから得た情報なのですが。テルポシエ領内でも、やはり同じことが起こっているのです」


「!!」



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