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ハロー♪ 富裕国ガーティンロー

 

・ ・ ・ ・ ・



 寒々しい曇天の下。晩秋の森林に黄金色の樹々がさいごの輝きを放つ中を、一行は進んでいった。


 約五十騎から成るマグ・イーレ遺骨調査団。遺族が主体とは言え、そのほぼ全員が現役・退役の軍属である。進み方は速かった。


 最後尾をゆくカヘル達は、ランダル王を囲むような形に騎を連ねている。


 長らく療養中……ということになっているランダル王に、こんな行軍をさせて大丈夫なのだろうか、とカヘル側近のローディアは毛深い胸のうちで心配していた。しかし、灰色ぶちの牝馬を駆るおじさんの姿は、これでけっこうさま・・になっているのだ。旅慣れている雰囲気すらうかがえた。王の隣をゆく、古書店主も同様である。



「ええ、ガーティンローはお隣ですしね、しょっちゅう来ています。キノピーノという大書店をご存知ですか? あそこで、希少本や資史料の閲覧をよくしているのですよ」


「僕は仕入れ中心に来ますねぇ」


「そうなのですか。わたしは書店の営業時間内になかなか行けないもので、取り寄せ通販ばかりです」


「ああ、でもデリアド城下には、すてきな小規模店がいくつもあるのですよね……」



 学者肌どうしだから、だろうか。ランダルとロラン、ファイーはすぐに打ち解けてしまって、馬上でなごやか雑談中である。



「それでパンダル先生、専門の時代はどちらですか?」



 女性文官はごく自然に、ランダル王の偽名にせ肩書にて呼びかけている。もっとも、そう呼ばれて何の違和感もない王であったが。



「一応、地元のマグ・イーレを中心に、ここ百五十年ほどの国史を編纂しています。でも始祖の植民前後や東部大半島史にも、どんどん関心が広がってしまいましてねぇ。全然すすまないのですよ」


「わかります。実に興味深いところばかりですからね」


「ファイー侯の研究されている、イリー史以前の≪巨石記念物≫も、本当に興味深いですよね! 僕は美術史方面から、巨石のことを知って驚いたんです」


「もしや線刻のことですか? ロランさん」


「ええ!」



 ローディア、ノスコ、プローメルとバンクラーナは、穏やかに聞こえてくる会話をついてけねーと聞き流していた。しかしカヘルだけは割と満足している。


 ランダルの歴史話に相槌を打っているファイーの声が、ぴしぴし弾んでいて楽しそうだった。


 自分の天命、巨石記念物の謎を解くという使命を楽しんでいる女性文官の口調は、叡智圧が聞いていてもどこか晴れやかである。ファイーのそのものがそこに弾んでいる気がして、カヘルの耳に心地よかった。


 そして変人集結マグ・イーレ王家の筆頭とは言え、穏やかに話し続けるランダルの口調は揺るがない教師のそれだ。安心して聞けた。



・ ・ ・ ・ ・



 その日の午後はじめ。一行は遠目にも赤い街並みの鮮やかな国、ガーティンロー首邑へと到着する。


 二班に分かれ、ミガロ侯率いる騎士隊と遺族の主体は、ガーティンローの宮城きゅうじょうへ向かって行った。今回の遺骨調査の旅については、他のイリー諸国にも伝達してある。軍属団体として同盟国のあいだを通過するのだから、挨拶込みの会食というわけだ。


 臙脂えんじ色の外套を着た、ど派手な見た目のガーティンロー騎士に伴われて、ミガロ侯と遺族たちは石だたみのすべらかな大路を歩いて行った。


 本来なら、デリアド代表のカヘルもそちらへ加わるのがすじなのだろう。しかし副団長のもとには、民間人に扮したランダル王がいる。あくまでもお忍びの立場を貫くらしい、マグ・イーレ王を置いて行く危険は冒したくない。プローメルとバンクラーナを代役としてミガロ侯に付き添わせ、カヘル自身はランダルに同行した。


 と、この十余人を率いてマグ・イーレの文官たちが向かった先は、市内の一軒家である。


 市民全員あまねく派手好き金持ち、というガーティンローらしいご立派な邸宅だ。彫刻石のもりもり盛り上がった壮麗な玄関前に、やぎのような柔和な顔つきの女性が立って、一行を迎える。


 ひょろひょろとしたその年輩夫人に、誰もが親し気に挨拶し、すいすいと邸宅へ入っていく。その様子を見て、ここは親マグ・イーレ派の貴族邸宅なのであろうな、とカヘルは見当をつけた。



「どうも、お世話になりますよ~」


「お待ちしていました、先生~」



 ランダル王に対しても訳知り顔で、年輩夫人はにこにこしている。くるっと振り返って、王はカヘルに言った。



「カヘル侯。こちらはガーティンロー騎士キーン侯の奥様で、キルス老侯の娘さんです。私の護衛のブラン君の、お母さまなのですよ」



 それで共通のやぎ顔に合点がいった。丁寧に礼をして、さあどうぞと食堂へ通される。一番最後に入ってきた末の息子をぐうと抱きしめて、他人のお世話に情熱をかけているキーン夫人はブランにささやいた。



「おかえり、ブラン!」


「ただいま、お母さん」


「あの人が、デリアドのカヘル若侯ね? さすがにしゅっとしているわ! 今、お母さんの手元にガーティンローの富豪お嬢さん三件あるのよ。どなたかおすすめしてみても、いいかしらねッ!?」


「お母さんは、ほんとにお見合い仲介が好きだなあ。でもさすがに、今回はやめておいた方がいいと思うよ」




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