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女子探偵団と珠子

下校時間、有言実行の女子三人組は、孝に気づかれないように今日もそっと彼の後をつけた。

三人の女子の名前は、おかっぱ頭の田中あおい・細身で三つ編みを左右に垂らした日野ひなた・背の高いポニーテールの河田かずよ、である。

そして、孝と女子探偵団は『ハイツ一ツ谷』に着いた。昨日と同じく、アパートの敷地で幼稚園児くらいの可愛い女の子が孝に向かって手を振っていた。が、突然彼女がフェンス越しに身を屈めていた女子探偵団に声をかけた。


「お姉さんたち、こんにちは」


彼女たちは慌てて立ち上がり、仕方なく


「こんにちは」


と挨拶した。

孝が不機嫌そうに珠子と手を繋いでフェンスに近づいた。


「何してるの?後をつけるのやめてって言ったよね」


孝は結構きつい言い方をした。


「ごめんなさい」


三人は素直に謝った。そして珠子に挨拶をした。


「こんにちは。前に私たちと会ったことあるよね」


「こんにちは。『フラワ・ランド』で会ったお姉さんたちね」


珠子も挨拶した。女子三人がそれぞれ名乗ると珠子も自己紹介をした。


「私、神波珠子です」


すると女子探偵団は


「神波君の妹さん?」


「神波君の親戚?」


好奇心を隠せず珠子に質問した。その様子に怒りが頂点に上った孝は


「タマコはおれのカノジョだ。もう帰ってくれよ」


そう言うと珠子と手を繋いで建物へ向かった。

孝に手を引かれた珠子が、ちらっと女子三人組を見ると足を止めた。


「タマコ、どうした?」


珠子が孝に耳打ちした。二人は踵を返し女子探偵団のところへ戻ると、珠子がおかっぱの女の子を見つめた。


「な、何」


おかっぱの田中あおいが珠子の目力に後退った。


「田中さん、話があります」


珠子が口に手を添えて内緒話をしたいジェスチャーをした。フェンス越しに耳を向けたおかっぱ頭に、孝に抱き上げてもらった珠子が耳打ちした。

その途端、田中あおいは顔色が悪くなった。

珠子と孝が建物の中に消えると、三つ編みのひなたとポニーテールのかずよがあおいの顔を見ながら心配そうに聞いた。


「ねえ、どうしたの?」


「あの子に何を言われたの?」


あおいは何も言わずに、首を横に振った。




「タカシ君おかえりなさい」


操が明るく出迎えた。


「ただいま」


「月美さん今日は茜とハウスキーピングの仕事に行ってるの。急な依頼が入っちゃったみたい。夕方には戻るから、それまでこっちにいてね」


操の言葉に今日も珠子と一緒にいられるのが孝は嬉しかった。


「ただし、おやつを食べたらタカシ君は宿題ね」


「はい」


「ミサオ、今ね、タカシのファンの女の子たちがきたの」


珠子が今さっきのことを操に話し始めたた。


「どういうこと?」


「なんか、おれ推しって勝手に言ってるクラスメイトがいるんだけど、そいつらがおれの後をつけてきてた」


孝がため息交じりに言った。


「タカシ君モテるのね。姫、しっかり彼をつかまえておかないとね」


操の言葉に、わかってる、と頷きながら珠子は話を始めた。


「ミサオと205号室の金子咲良(かねこさくら)ちゃんと行った『フラワ・ランド』のフードコートで三人組のお姉さんたちに、私話しかけられたじゃない」


「そんなことあったわね」


「その人たちがタカシのクラスメイトで、ここまで後をつけてきてたんだ」


「そうなの」


操が孝を見る。孝は頷いた。


「その中の一人、おかっぱ頭のお姉さんがちょっと気になってね」


「何か感じたの?」


「うん。そのお姉さんの多分お父さんがね、お姉さんを連れて行こうとするの。お姉さんはそれが嫌で抵抗する。私そう感じたの。だから帰り道、気をつけてって伝えた」


「そうか。何事もなく家に帰れるといいわね」


操は何か考え込んでいたが、そんな彼女に珠子はどうしても聞いてほしいことがあった。


「ミサオ、あのねタカシがね、さっきのお姉さんたちに言ったの。私、タカシのカノジョなんだって」


「あらあら、タカシ君そんなこと言ったの?」


孝は顔を紅くして頷いた。


「本当のことをはっきり言わないと、あいつらいつまでもしつこいから……タマコはおれのカノジョだって言ったんだ」


この二人を見ていると、源と鴻の小さい頃を思い出すわと微笑んだ操だった。




孝に冷たくあしらわれた女子探偵団は家路をとぼとぼ歩いていた。


「あの小さな子、ちょっとむかつく」


三つ編みのひなたが口を尖らす。


「あんなにべったり仲がいいのはやっぱり妹なんじゃない」


ポニーテールかずよが希望的見解を言う。そんな中、おかっぱのあおいは一言も喋らなかった。


「あおいちゃん、あの子に何を言われたの?」


二人から何度も聞かれて、あおいはやっと口を開いた。


「私の両親ね仲が悪くて今別々に暮らしているの。私はお母さんと住んでるんだけど、最近なんか後をつけられているみたいなの。もしかしてお父さんなのかな。本当は神波君の尾行をしてる場合じゃないんだよね、私」


「で、あの子は何て」


「お父さんに気をつけてって」


おかっぱあおいは力無く言った。


「あの子、なんであおいちゃんのお父さんのことを知っているの?」


ポニーテールかずよが聞く。


「わからない」


「でも、あの子に言われたことに心当たりがあるのね」


三つ編みひなたが、あおいの顔を見る。


「うん」


「私たち、あおいちゃんを送っていくよ」


「ありがとう」


翌日、田中あおいは登校してこなかった。

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