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プロポーズ

「ヒイラギ格好よかった」


孝が運転席の柏に言った。少し背が伸びた孝は普通にサイドシートに座りシートベルトを着けた。


「馬子にも衣装だな」


柏は笑っていたのだが、


「柊さんは胸板が厚いからスーツを綺麗に着こなせるのかも」


月美が納得していた。

それを聞いて、


「俺だって、着こなしてるよ」


と、少しむくれた彼の真後ろに座っていた月美が


「はいはい、わかってる。柏の方がカッコイイよ」


と、手を伸ばして運転手の肩をポンと叩いた。


「カシワは甘えん坊だな」


孝が呆れたように言った。


「ねえ、茜さんと藍さんを乗せなくてよかったの?」


さっきから月美は気になっていた。


「ああ、あいつら二次会に呼ばれてるんだ。ヒイラギと美雪さんの友人たちがセッティングした会らしいんだけど、茜も藍も華があるだろう。是非って呼ばれたみたい」


「そう。安心した。確かにあの二人、男装の麗人だったね」


「ねえ、今日はおれ、カシワのところに泊まってくの?」


孝が聞いた。


「嫌か?最近お前ウチに来たがらなかったな」


柏がちらっと孝を見た。


「嫌じゃないよ。今日からずっといてもいいよ」


孝は機嫌良く言った。


「この前までと態度が違うじゃん。どうした?何があった」


「そうね。どうしたの」


柏と月美に孝は元気に告白した。


「あのね、タマコのお父さんから許可をもらったんだ」


「源兄さんから、なんの?」


「おれはタマコのいとこじゃなくてボーイフレンドでいいって」


「いとこで且つボーイフレンドでいいんじゃないの」


柏はそう言ったが孝の中では、いとこのポジションは嫌なのだ。


「いとこが嫌ってことは、やっぱり山口姓を名乗りたいのか?」


「そうじゃないよ。おれの気持ちの問題。この間、タマコのお父さんとお母さんの話を聞いたんだ。カシワはもちろん兄弟なんだから知ってるんだろうけど、タマコのお父さんとお母さんも兄妹なんだろう」


孝の話に月美が驚く。


「どういうこと?」


「今の話だけ聞いたら驚くよな。月美にはプロポーズの前に伝えようと思ってたんだけど。鴻ちゃんは神波の家の前に置き去りにされた赤ちゃんだったんだ」


柏は話を続けた。


「母さんは多少は父さんの浮気を考えたみたいだけどな。父さんも身に覚えがなくても疑われるのは嫌だったから、神波家がみんな世話になってた今で言うホームドクターに頼み込んで親子鑑定をしたんだって。もちろん血縁関係は無かった。で、鴻ちゃんを養女として迎えたんだって」


「そんなことが」


「源兄さんが1歳のときだったんだけど、その頃から鴻ちゃんにべったりだったそうだ。俺たちはその後に生まれたから、みんな実の兄弟姉妹だと思ってたわけ。年頃になると、兄さんと鴻ちゃんはなんか変だなって思ってさ、聞いたんだよ。そうしたら母さんと父さんから鴻ちゃんは家の門の前で拾った赤ちゃんで、兄さんは幼い頃から鴻ちゃんの傍から離れなかったんだって」


柏の話に孝が頷いた。


「おれもタマコのお父さんとお母さんからその話を聞いたんだ。タマコのお父さんがさ、血が繋がってるんじゃないんだから、書類上は親戚でも気持ちはタマコのボーイフレンドだって思えばいいんだよって。自分たちもずっとそう考えて夫婦になったんだって言ってた」


「まあ、普通にいとこ同士は結婚できるんだけどな」


さらりと言う柏に孝が驚いた顔をした。


「そうなの?」


「ああ、ただタカシが思い詰めていたから、余計なことかなと思って言わなかった」


「そうか。カシワはおれに気を使ってくれたんだな。それで……お母さんはカシワのプロポーズになんて返事するの?」


突然話を振られた月美は慌てた。


「孝、急に何を言い出すの」


「急じゃないよ。さっきカシワがプロポーズの前に話さなきゃって言って話したんだから、次はプロポーズでしょ」


「わ、私はもちろんイエスだけど、孝がどう考えているのかそれが心配だったの。神波孝になっていいのね」


「うん」


孝が頷き柏はもう一度確認した。


「タカシ、山口でなくなっていいのか?」


「うん。これからはカシワのことをお父さんって呼ばないとな」


「そ、そうか、俺はお父さんになるんだな…」


「柏、ぼうっとしないで運転に集中して」


後ろから月美が活を入れる。


「あ、ああ、大丈夫だ」


なんだか、いつの間にかプロポーズが成功して俺たち家族は、マイホームに帰る途中なんだと柏は嬉しくて幸せな気持ちになった。

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