ベールガール・ベールボーイ(1)
「チャペルの雰囲気とウエディングドレスのデザインを知りたいな」
山口月美が電話で話している相手は柏だ。
柏は、柊と連絡を取ってチャペルを含む結婚式会場の写真と花嫁のドレス一式のイメージフォトを送ると言った。ついでに、月美はどんな花嫁衣装がいいのか聞いてきたので
「おバカ」
と言って通話を終えた。
現在妊娠中の石井美雪の体調が落ち着いてきたので、美雪の両親と神波柊はそろそろ結婚式を挙げたいと話を進めた。その話し合いの中で、チャペルのヴァージンロードを歩く花嫁のベールを後ろで持って歩くベールガールとベールボーイを、珠子と孝にやって欲しいと言われ、せっかくなので、月美が珠子と孝の衣装を揃えて作ることにしたのだ。
「お母さん、おれ、恥ずかしいよ。タマコだけやればいいじゃん」
結婚式での大役を頼まれた孝は少しごねた。
「孝、これ見て。この立派な長いベールを美雪さんが着けて歩くの」
月美が柊から送られた美雪の衣装合わせの画像を見せた。
「この人、ヒイラギのお嫁さん?」
「そうよ。ね、頭からのレースの飾りがとても長いでしょう」
「うん。引きずってる」
「このレースの裾を孝と珠子ちゃんで持って、花嫁さんの後ろを歩くの。分量のあるベールだから珠子ちゃん一人じゃ無理なの」
「しょうがないな」
実を言えば、珠子とお揃いの衣装で並んで歩くのはちょっと嬉しいのだ。ただそれを悟られたくないので孝は文句を言っただけだった。
後日、月美は操と珠子を誘って手芸用品の大型店へ向かった。
「すごーい!いろんな色の何かがいっぱいあるね」
珠子は売り場の棚に並べられた色とりどりで質感も様々なものを見て回った。
「で、これってなあに?」
月美に聞いた。
「これはね、服や袋なんかを作る布地よ」
「厚いのや透き通ったのやいろいろある」
「そうなの。このたくさんの中から選んで、珠子ちゃんに似合うドレスを作るわね」
「タカシとお揃いの?」
「そう。孝はパンツで珠子ちゃんはワンピースをお揃いの生地で作ろうと思ってるの」
淡いブルー系の生地を何種類も見比べながら月美が言った。
「爽やかな色味ね」
と、操は言いながら月美の後ろから彼女が真剣に生地を確認している姿を見ていた。初めて月美と会った頃から比べると、今の彼女は見違えるように生き生きとして、その姿が頼もしく思えてとても嬉しかった。
「お式まで約一月、孝も珠子ちゃんもそれまでに体が少し大きくなるのを考えないとね」
月美は言いながら何種類か候補の生地を棚から引き出した。
月美の家で、珠子は採寸をされた。
「これでよし。後は仮縫いができたら、一度合わせましょうね」
「その時はタカシも合わせるの?」
「そう。二人で並んで、どんな感じになるか楽しみね」
月美はとても嬉しそうだった。
「ねえ、月美さん」
操が月美をじっと見た。
「はい」
「もし、もしねあなたが嫌でなければ……いえ。何でもないの」
そう言いかけて、どうも自分はお節介だなと操は反省した。
「あの、柏さんのところに…一緒に住まないかというお話ですか?」
「カシワから言われた?」
「ええ。私、とても嬉しかったんですけど」
「けど…」
「孝の本心を聞いてからお返事します」
「タカシ君反対なの?」
「そういうことではないんですけど」
月美がちらっと珠子を見た。
「ん?」
「珠子ちゃんといとこ同士になるのが気になるみたいで」
月美が操に耳打ちした。
「おや、それの何が気に入らないのかしら?」
「ねえ、何を内緒話しているの?」
珠子が二人の前に立って首を傾げていた。
「タカシ君がカシワの部屋に住みたがらないって」
操が言うと、
「えっ、タカシは私の隣に住むのが嫌なの?」
珠子はショックが隠せない様子だった。
「そういうことではないのよ、珠子ちゃん」
月美が慌てて珠子の目の前にしゃがんで話をする。
「あの子、珠子ちゃんが大好きなの。あなたのボーイフレンドでいたいんだと思うんだけど、親戚になるとそういうわけにいかなくなると思っているみたい」
「そんなこと考えてたの?ちょっとタカシ君可愛いじゃない!」
操が満面の笑みで言った。