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藍の髪 茜の髪

神波藍と神波茜は一卵性双生児だ。身長も体格も顔立ちもよく似ている。

違うのは目の色と髪の色で、藍は濃いグレーの瞳に、赤味のないアッシュグレーの髪色だ。一方、茜は薄めの茶色い瞳に、栗色の髪をしている。

二人とも女性にしては身長が高くスレンダーな体型だ。骨格が似ているせいか、電話で聞くとどちらの声か判らないほどだ。そして二人は仲がいい。お互いの悩みなどもよく相談する。

髪型もほぼ同じベリーショートだ。これは後頭部の形がとても綺麗で彼女たちのキリッとした顔立ちによく合っている。更に二人の仕事、よそのお宅に伺って家事代行をするのに邪魔にならず丁度良いヘアスタイルだった。


「藍、そろそろ美容室行かない?」


形の良いショートヘアを保つため二人は十日に一度ヘアカットに行っている。少し贅沢だが毎日仕事を頑張っている自分へのご褒美なのだ。


「茜、私さ、しばらく髪を伸ばそうと思ってる」


「どうしたの」


「少し女性らしい髪型にしようかなって…」


「何?どうしたの」


「うん。この間お母さんの奢りで海に行ったじゃない」


「結構いいホテルに泊まれたんでしょ」


「そう、その時さ茜の都合がつかなくて……」


「そうだった。急にお得意様から依頼が入って断れなかったんだよね」


「高校の時の友だちを誘ったら喜んで一緒に行ってくれたのね」


「うん。それで」


「私、女子校だったでしょう。そこの高校がさ、私は気にして無かったんだけどね、友情と愛情が混同するって言うか…」


「つまり、一緒に行ってくれた友人が藍に恋愛感情を持っていたってこと?」


「そうみたい」


「でも高校を卒業して結構経つじゃない。その後進学したり就職したりで、生活が変われば気持ちも変化するんじゃないの?」


「普通はそうでしょうね。でも彼女は違ったみたいでさ」


「今までも会ってたの?」


「たまに時間が合えば飲みには行ったよ、普通に友人と思ってたし。それ以外は年賀のメッセージを送るくらい」


「飲みに行ったときは何でもなかったの?」


「多分。そんなに気にして無かった」


「で、海で何があったの?」


「うん……最初は普通だった。まあ腕を組むくらいはどうってことないじゃない」


「そうね」


「お風呂も大浴場で背中を流しあうのも、そんなに変じゃないと思うの」


「うん」


「二日目の夜ね、BBQだったんだけど、私、グリルを仕切りたかったの。普通の食材を美味しく焼き上げるって腕が鳴るじゃない」


「わかるぅ!家事を生業にしてる私たちには譲れない部分よね」


「だけど、その時ね彼女が急にベタベタくっ付いてきて作業の邪魔だったの。それに気づいたタマコちゃんが彼女をみんなのところに連れて行こうとしたんだけど」


「どうなったの」


「彼女、タマコちゃんのほっぺたをぎゅっとつねって、痣になっちゃったの」


「痣になるほどつねったわけ」


「そう。翌日も指の形に紫色だったの」


「それは酷いね」


「食事が終わって部屋に戻って、彼女に今夜のあなたは変だって言ったの」


「うん。そうよね」


「そしたらね、彼女が言ったの。藍はつれなすぎる。私はこんなにあなたを想っているのにって言うのよ」


「それ、怖い」


「そう、怖かった。それに前の晩はそんなことなかったのに、その夜は私のベッドに入ってきた」


「何よ、それ。で、どうしたの」


「いよいよヤバイって思ったとき、お母さんから着信があって出たらタマコちゃんからだった」


「うん」


「タマコちゃんがね調子はどうですかって聞くから、最悪って答えたの」


「うふっ。藍の状況はシリアスだけど、タマコちゃんとのやり取りはちょっと面白い」


「で、タマコちゃんがねアイちゃんの隣で寝てもいいかなって言ってくれたの。いいよって返事したら枕を持ってすぐ来てくれて」


「ナイスフォローね」


「ホント助かったわよ」


「でもさ、翌日、藍の車の中は最悪だったんじゃないの」


「そう。タマコちゃんのヘルプも期待できないし地獄のような無言の世界よ。FMをマックスに鳴らして帰ってきた」


「私がキャンセルしたばかりに大変だったね」


「うん。大変だった。もちろん茜は悪くないよ」


その時、藍の携帯電話に着信があった。古沢礼奈と表示されている。藍と茜がお互いを見合った。


「スピーカーにして二人で出よう」


最初は藍が声を出した。


「はい」


──アイ、私。礼奈


「どうしたの」


──これから会いに行っていい?


「ごめん。これから出かける」


今のは茜が話した。


──私、避けられてる?


「そうじゃ無くて、用事があるから会えないの」


──嘘、会いたくないからでしょう


「「あのさ」」


思わず二人で叫んでしまった。


「「いい加減にして!」」


──な何よ


「礼奈さん、初めまして。藍と双子の茜です。割り込んですみませんが、私の大事な姉妹が困っているので一緒に話をさせてください」


──プライバシーの侵害です。私はアイと話がしたいんです。外野は黙ってよ


「レナ、ホテルの部屋でも言ったけど、あなたは友だちであって恋人ではないの。友人としてならこれからも付き合える。でも、それ以上なら会うことも連絡することもやめる」


──酷いわ。私だけのアイなのに


「あのさ、いい加減になさい()()さん」


──だから外野は黙ってって言ってるでしょう


「今喋ったのは私、藍よ」


──えっ


「藍でも茜でも、あなたはどっちでもいいのよ。違いがわからなかったでしょう」


──そんなこと無いわ。


「とにかく、少し距離を置きましょう。ね、そうしよう」


突然通話が切れた。


「なんか後味悪いな」


藍がため息をついた。




「ね、藍、髪を切りに行こう。美容室のチャラいスタイリストのお兄ちゃんと何か明るい話をしようよ」


「そうね。でもさ、私たちってこんなに魅力的なのに、何で彼氏できないのかな。柏も柊も上手いこと嫁さんゲットしそうじゃない」


「柏も結婚するの?」


「多分。月美さんと」


「そうなの?姉さん女房か。ちょっとビックリ。まあ、確かに月美さんて、家庭的だし柏よりかなり若く見えるよね」


「それだけじゃないの。タカシ君なんてタマコちゃんのナイトなんだから」


「えーっ、何なのそれ」


「タマコちゃんがレナにほっぺたをつねられていた時、すぐに気づいて助けたのがタカシ君なのよ」


「まーじかー、スウィートハートがいないのは私たちだけ」


「そうスレンダー美人の私たちだけ」


「藍、一緒に髪をカットしに行こう!ベリーショートでキュートになろうよ」


結局、藍も茜もいつも通りヘアカットしてもらいに美容室へ向かった。

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