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遊園地で

「ねえミサオ、今リョウ君に出した葉書いつ届くかな」


郵便局からの帰り道、珠子は操と手を繋ぎながら歩いていた。


「一週間ぐらいかかるのかしらね」


「オランダって遠いんだね」


「そうね。ところで姫、お昼何にする?」


「うーん、お好み焼きが食べたい」


「それならウチにある材料で作れるわね。じゃあ寄り道しないで帰ろうか」


「うん。ミサオ、暑いね」


「そうね。いつの間にか夏だものね」


「今年は海に行くんだよね」


「えっ、海?」


「うん、海。アサリの砂を抜いてる時、ミサオ言ったじゃない。暖かくなったら本物の海の水を触りに行こうって。暖かいを通り越して暑いから、すぐに行けるよね」


珠子がきらきらした瞳で操を見る。

操は軽々しく海に行こうなんて言った自分に心の中で舌打ちした。柏か柊に頭を下げて連れていってもらわないとならない。


「そうね。みんなの都合がついたら行こうね」


作り笑いで、とりあえず返事をした。




土曜日の朝、操と珠子はカジュアルな服装で外出の準備をしていた。水色のキャップをかぶりオレンジ色のTシャツにデニムのひざ丈パンツの珠子は、シロクマリュックのお腹にハンカチとティッシュを入れて背負った。


「姫、トイレは大丈夫?」


「うん。済ませたよ。ミサオ、パス忘れないでよ」


「はい、大丈夫です」


ミサオも小振りなリュックに必要なものを収めて、金子咲良が来るのを待っていた。

インターホンが鳴る。


「おはようございます。咲良です」


張りのある若々しい声がした。

珠子が扉を開けて出た。


「咲良さん、おはようございます」


「おはよう、珠子ちゃん。神波さん今日はよろしくお願いします」


「こちらこそ。一日楽しみましょうね。さ、行きましょうか」


三人は足取り軽く駅へ向かった。


三十分ほど電車に揺られて、最寄り駅から約五分で『フラワ・ランド』に着いた。

土曜日だけあって開園直後の人波は凄かった。

操たち三人はゲートスタッフにパスを渡すと二次元コードがプリントされたビニールテープのような素材の腕輪をそれぞれの手首に巻かれた。各アトラクションや乗り物の入り口の機械にそのコードをかざすらしい。


「どれに乗りますか」


咲良は目をきょろきょろさせながら二人に聞いた。


「咲良ちゃんが気になるやつでいいわよ」


「珠子ちゃん、身長どのくらい?」


「姫は、105センチぐらいね」


「まず、その身長で乗れるのにしましょう」


珠子の背丈で楽しめる乗り物は結構あり、珠子も咲良もキャッキャとはしゃいでいたが、操は絶叫マシンは苦手なようで顔色が優れなかった。


「ミサオ大丈夫?」


「ええ。姫は、あの高低差よく平気ね」


「うん。お腹がヒューってなるの楽しいよ」


珠子と咲良は仲良く連れ立ってローラーコースターや3Dアトラクションを楽しんだ。

操は二人が戻ってくるまで近くで待っていた。

時刻は正午をすぎて、水分補給と昼食と休憩を取るため三人はフードコートに入った。混み合ってはいたが何とか座席を確保できた。


「私とこの子でフードとドリンクを買ってくるから、咲良ちゃん席が取られないように待っていてくれる?」


「はい、待ってまーす」


操は咲良の食べたいものとドリンクを聞いて、珠子と店舗を見ながら目当てのところに手を繋いで並んだ。


「やっぱり人がいっぱいだね」


珠子と操が列の中間辺りで話をしていると、


「あなた、この間山口君と手を繋いでた子じゃない」


小学生の女子三人組が声をかけてきた。

ふっくらしたおかっぱ頭と、三つ編みを左右に垂らした細身の子と、背の高いポニーテールが、それぞれ空き容器を乗せたトレーを持っている。

珠子は三人の顔をじっと見た。


「今日は手を繋いでるの山口君じゃないんだね」


すらりとしたポニーテールが言った。


「今日はタカシ来てないもん」


珠子が言うと、ふっくらおかっぱがたたみかける。


「タカシだって。なんか馴れ馴れしい。ちょっと可愛い顔してるからってむかつく」


「あなたたち、タカシ君のお友だち?」


思わず操が口を挟んだ。


「同じクラスです」


三つ編みおさげが言った。


「私たち、山口君の親衛隊なの」


ポニーテールが珠子に向かって言った。


「親衛隊?」


珠子が首を傾げる。


「つまりファンよ」


「なーんだ」


珠子が微笑んだ。


「なーんだって何よ」


三人組が声を揃える。


「私もお姉さんたちと同じ、タカシのファンだよ」


微笑んだまま珠子は言った。


「そうなの?」


「そうなの。私は小さくて上手に呼べないから、タカシって言ってる」


珠子の言い分に納得したのか


「って事は、私たちとあなたは山口君の推し仲間なわけね」


三人組は勝手に納得して


「じゃあね」


と言って行ってしまった。

去った三人の後ろ姿を見ながら操は珠子に聞いた。


「今の、何だったの?」


「さあ。まあ面倒くさいことにならなくて良かった。ミサオ、私たちが注文する順番がきたよ」


注文をした操は、できあがった料理を二つのトレーに乗せて器用に運んだ。珠子も三人分のドリンクをトレーに乗せてそろりそろりと操の後に続いた。


「お待たせしました」


咲良の待っているテーブルに無事到着すると、腹ぺこな三人はもりもり食べてあっという間に完食した。


「珠子ちゃん、この後何に乗ろうか」


咲良と珠子で仲良く、この後乗りたいアトラクションを確認する。


「二人とも食べたばっかりでよく乗ろうと思うわね。考えただけで気持ちが……」


操は深いため息をついた。

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