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操と珠子とお気楽な娘達

操の娘の茜と藍は双子だ。一卵性なのでとても似ている。顔も体型もほぼ同じ姉妹を見分けるのは、目の色とピアスだ。茜は明るい茶色の瞳で右耳にレッドスピネルのシングルピアスをしている。藍は濃いグレーがかった瞳で左耳にブルースピネルのシングルピアスをしている。骨格がよく似ているせいか声を聞き分けるのは難しい。

二人は一緒に家事代行業をしている。仕事の内容は料理や掃除、犬の散歩や雑草取りや条件にもよるが子どものお守り等も引き受ける。彼女らが住んでいる202号室は住居兼事務所だ。

そこのダイニングで、


「あなた達が私をお茶に誘うなんて嫌な予感しかしないんだけど」


操が言った。茜がモンブランと紅茶をテーブルに置きながら、


「ひっどーい。せっかくパティスリーブランのケーキを頂いたから一緒に食べようと思って声を掛けたのに」


口を尖らせて言った。

パティスリーブランはこのアパートの最寄り駅の近くにある老舗洋菓子店だ。いろいろな媒体に取り上げられて人気のケーキはすぐ売り切れてしまう。この時期のモンブランは新栗を使っているそうで、なかなか買えないらしい。


「そうなの。それは失礼しました。ありがたく頂くわ」


紅茶の香りを嗅ぎながら操は言った。


「お母さんは私たちの事を信用してないのよね。何か裏が有るんじゃないかってすぐ疑うんだもの。タマコちゃん、飲み物は紅茶で大丈夫?ホットミルクにする?」


藍が、珠子の前にケーキを置きながら聞いた。


「すみません。できればホットミルクお願いします」


珠子がモンブランを見つめながら言った。



四人が美味しくケーキを食べ終えると、


「実はちょっとお願いがあるんだけど」


茜が言った。


「やっぱりタダじゃ無いんだ」


操が軽く睨むと、


「お母さんじゃなくて、タマコちゃんに頼みたいの」


藍が珠子に向かって言った。


「何でしょう」


珠子が藍を見た。その眼力(めぢから)に圧倒されながら話す。


「私たちのお客さんが四・五歳位のモデルを探しているの。タマコちゃんだったら、しっかりしてるし可愛いし美人だしね、ぴったりかなって思って」


「何のモデルなの」


操が聞いた。


「駅の向こう側の開発地区でフリーペーパーを出してるんだけど、その表紙モデルをタマコちゃんに頼めないかって。年四回の発行で秋号から一年間」


藍が言うと


「お母さんとタマコちゃんが買い物してるところを見かけたんだって。イメージにぴったりだったそうよ。表紙のモデルなんて凄くない!」


茜も興奮気味に言った。


「ふーん。姫はこの話どう思う」


操の問いかけに


「はい。モデルやりたいです。私に務まるかわからないけど」


少し恥ずかしそうに珠子が答えた。



数日後、珠子は小さな観賞用南瓜を持った魔女の姿でカメラの前に立っていた。

開発地区にある新築マンションの一室、ハロウィーンの飾り付けをバックに、はにかむ珠子がディスプレイに映し出されていた。


「タマコちゃんバッチリ決まってる」


シャッターを押しながら津田健一(つだけんいち)は明るく声を上げた。

撮影の邪魔にならない所で操は見守った。

──姫、可愛い過ぎる!



撮影は無事終了して衣装とメイクを取った珠子が操の元に戻ってきた。


「姫、最高だったよ」


「ミサオ、やめて。恥ずかしいよ」


操のべた褒めに珠子は顔を真っ赤にして俯いた。


「ホント、良かったよ。次の撮影も楽しみだ」


津田は満足げに言った。


「ゲラが上がったらタマコちゃんと操さんにお見せしますね」


「ゲラ?」


珠子が首を傾げる。


「印刷に入る前の最終見本の様な物だよ。ところで皆さんお茶でもいかがですか。このマンションの一階にコーヒーショップがあるので行きませんか」


珠子が頷いたので、皆でショップに向かった。

店内は結構混んでいて、ざわめきが以外と心地良いと珠子は思った。四人掛けの席に珠子と操、向かい側に取材・撮影・編集にレイアウト等殆ど一人でこなす津田とヘアメイクを担当している川村宏子が座った。


「ウチの賑やか過ぎる娘たちは川村さんのお宅にお伺いしてるんですか」


「ええ、月二回水回りを綺麗にしてもらっています。とても丁寧ですし感じも良い方達で助かってます。それで茜さん藍さんと世間話をしていた時、珠子ちゃんの話題になって」


宏子は珠子を見ながら言った。


「話で聞いていたより、遥かに可愛らしくて落ち着いたお嬢さんで驚きました。珠子ちゃんとお話していると、とても4歳とは思えないの」


「お、おそれいります」


珠子は恥ずかしそうに小声で言った。

宏子は横の津田を見た。


「ほら津田さん、恐れ入ったでしょう」


「確かに、語彙力が4歳じゃない」


和やかにお茶の時間は過ぎて、次回の撮影日が決まったら連絡をくれる約束をして、珠子と操は帰路についた。




「タマコちゃん撮影どうだった?」


「初めての事だから、とても興味深かったです。お化粧も楽しかった」


「もう、可愛いなんてもんじゃないわよ。魔女の格好をしても奇跡の天使よ、姫は」


撮影から戻った珠子と操は茜と藍の部屋を訪れて、今日の報告をしていた。


「あんたたちのお客様の川村さんがヘアメイクと衣装を準備して、津田さんって人が撮影して、姫は凄く褒められのよ。画像データを幾つか貰ったの」


操はスマホを娘たちに見せた。


「おー、素敵!タマコちゃんのこのちょっと挑むような目がイイね」


茜が興奮気味に言った。


「どれどれ、大人びた表情が魔女の衣装と合ってる。目の前のタマコちゃんと同じ子に見えないね。凄いよ」


藍も想像のかなり上を行ってると声が上擦った。


「アカネさんアイさん、川村さんに会ったら、私、メイクアップがとても楽しくて嬉しかったとお伝えください」


珠子が言った。

そのもの言いに茜が驚いた。


「わ、わかった。川村さんに伝えるね」



自分たちの部屋に戻った操と珠子はソファーにどさっと腰を下ろした。


「今日は楽しかったけど少し疲れたね」


「うん。ちょっとね」


「今日の夜はレトルトカレー目玉焼き添えで良いかな?」


「うん。ところで、ミサオ、津田さんたちとコーヒーショップに行った時ね」


「ん、どうしたの」


「私をじっと観察していた人がいたよ」


「……それって」


「多分今日だけで無く、時々私を、もしかしたらミサオなのかもしれないけど見張られていると思う」


「そう。分かった。外出する時は気を付けましょう」


「うん」

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