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初めての潮干狩り(2)

「タマコ!」


孝が叫んだ。彼の二十メートルほど先に倒れた珠子と彼女を抱きとめた操の姿があった。

孝の声に柏が彼の傍に行き、


「どうしたんだ」


肩に手をかけた。孝の指差す方向を見て


「何があった」


柏は走り出した。孝も後に続く。

操が珠子を抱きとめたまま、砂の上に座り込んでいる。


「何があった」


操の目の前で柏が聞いた。


「カシワ、ここの管理人に急いで伝えて。さっきタカシ君がいた辺りに危険なものがいる」


操が早口で言った。


「誰かが触ると危ないから」


「タカシ何かいたのか」


柏の問いに孝が答えた。


「膨らんだビニール袋みたいなやつで、青くなってる部分がきれいで…」


「おまえがさっきいたところに戻るぞ」


柏と孝は今までいた方向へ走り出した。

そこにあったものを見て、柏は入場料を払った時、携帯電話に読み込ませておいた電話番号にかけた。


「あの、そちらの事務所から見て南西の方角の砂浜に、カツオノエボシのようなものがいます。今のところ怪我人はいないようです。私は、誰かが()れないように、そちらの方が到着するまでここにいます。えっ、目印ですか?私は濃紺の地に水色の三本線が入ったパーカーを着ています。それと青いキャップを被って迷彩柄のパーカーの男の子が一緒にいます。至急お願いします」


連絡を終えた柏は砂の上にちょこんと置かれたようなそれを見た。


「カシワ、それ危ないものなのか?太陽の光できらきらきれいだよ」


「タカシ、それに触ると大事(おおごと)になるんだ。こいつクラゲみたいなやつで強い毒を持ってるんだ。あ、それに触らないでください。危険ですよ」


ぷくっとした青く綺麗なそれを、珍しそうに見に来た人々に柏は声をかけた。

やがて、捕獲用具を手にした浜の管理人がやって来て無事処理を終えた。


「通報ありがとうございました」


管理人が柏に礼を言った。


「この時期でも浜に上がるものなんですかね」


柏の疑問にその人も首を傾げながら言った。


「いや、普通は台風なんかで打ち上げられたりするんですけど、まだ気温もそこまで高くないからねえ。海水温が上がっているのかな。昨日まで強風でこの内海も結構波が高かったから運ばれたのかも知れないです。とにかく、怪我人が出なくて助かりました」


管理人は柏と孝にお辞儀をして去っていった。


「カシワ、タマコのところに行こう。あいつのことが心配だ」


孝は柏の手を引っ張って走り出した。

珠子は操の腕の中で目を覚まし、起きあがろうとしたがよろけてしまった。操がさっと手を伸ばして珠子の体を支えた。


「タカシ大丈夫だったかな」


珠子が弱々しい声で言っているところに孝が走り寄って叫んだ。


「タマコ大丈夫か」


元気そうな孝を見て珠子は少し笑顔になった。


「無事で良かった。逆に私の方が心配されちゃった」


「タマコありがとうな。俺の方がこいつの傍にいたのに…あんなものが浜に打ち上げられていたなんてな。俺がタカシを護ってやらなきゃならないのに、ごめんな」


柏が珠子に頭を下げた。


「やめてよ、カシワ君。私たちがカシワ君の方に行こうとしたら、タカシが向かった先に、何かわからないけど濁ったモヤモヤしたものがみえたの。だから叫んで知らせようとしたんだけど、届かなかったからちょっと(りき)んじゃった」


珠子が恥ずかしそうに言った。


「さ、潮干狩り再開!私たちなんてほら、バケツ二つに山盛りよ」


操が得意気に戦利品を見せた。


「俺たちだってこの網見てくれよ」


柏もそこそこ採れたアサリを見せた。


「それじゃ、バケツのをその網に入れて、空いたバケツをもう一度山盛りにするわよ」


操が両手に持ったバケツを一つ孝に渡した。渡された孝は心配そうに珠子の顔を見た。


「タマコ動けるか?」


「大丈夫。タカシ、負けないわよ」


珠子が笑顔を見せた。


「よし、始めるか」


操と柏、二手(ふたて)に分かれてアサリ採りを再開した。




帰りの車の中、珠子は疲れてぐっすり眠っていた。孝はちらちらと珠子の顔を覗き込む。


「タカシ、珠子の寝顔可愛いだろう」


柏が孝を茶化すように言う。


「うん。起きてる時は生意気だけど、寝てるとカワイイかも」


珍しく孝が真面目な顔で呟いた。


「タカシ君、寝てていいよ。疲れたでしょう」


操が振り向いて声をかけた。


「はい」


と、返事をしたがもう少し珠子の寝顔を見ていたいなと孝は思った。

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