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ハイツ一ツ谷のホッとな日常  作者: モリサキ日トミ


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289/295

ツアーが終わって

バスは、操の住まい『ハイツ一ツ谷』の最寄り駅前に無事に到着して、海鮮三昧とみかん狩りとワイナリーのツアーは終了した。

ツアー客たちは運転手に挨拶をしてガイドからのお土産を受け取り、いろいろあったけど楽しかったよと口々に言って、車体横のトランクスペースから各々が購入した物を手にすると解散となった。

操と美子も運転手に挨拶をした。運転手は操の顔を見て、ありがとうございましたと会釈をした。

バスを降りるとガイドがお土産の入った袋を手渡して、


「神波様、石井様、本日はありがとうございました。このツアーが無事に終えられて感謝します」


深くお辞儀をした。


「私は何も」


と、美子は手をパタパタと振りながら言い


「私もトイレが近くて我慢が出来なくてバスの出発を遅らせてしまった、それだけです。運良く逆走車との接触に遭わなかっただけですよ。偶然なんです」


と、操も恥ずかしそうに話した。


「是非またツアーにご参加ください。お待ちしております」


ガイドがもう一度丁寧にお辞儀をした。

操と美子も軽く会釈をして


「操さん、あそこに広之(ひろゆき)の車があるわ。行きましょう」


両手にいっぱいの土産物が入った袋をぶら下げた美子に促されて、同じように両手にいくつもの袋を持った操がついて行った。

二人の姿に気づいた石井家の長男の広之が白のセダンから降り、トランクを開けてこちらに近づいて来た。


「こんばんは。神波さん、母に付き合ってくださってありがとうございました。荷物を持ちます」


物腰の柔らかい紳士的な広之が操の荷物を持ってトランクに置いた。その後、美子の荷物も入れて扉を閉めた。


「神波さん、後にどうぞ」


広之が後のドアを開けて


「すみません。よろしくお願いします」


操が後部座席に座った。

そして助手席に美子が座り


「運転手さんお願いしまーす」


と言うと、広之は、はいはいと返事をして車をスタートさせた。


「ウチの姫が『松亀』さんの厨房を見学させていただいた時に、鰻に真剣に向き合っている広之さんたちを見て怖いくらい頑固そうな職人さんだと言ってたんですけど、今の広之さんはまるでモデルさんみたいに格好いいわぁ」


と操が言うと、


「馬子にも衣装ってことかしら。ホント広之も守和(もりかず)も性格は優しいし真面目だし見栄えも悪くないのに、なんでお嫁さんが来てくれないのかしら」


ワインの試飲をたっぷりして、気持ちよく酔っぱらった美子は本音をこぼした。


「母さん」


広之が横目で美子を睨んだ。

あっという間に車は駅近の操アパートに到着した。

操が車から降りると広之も降りてトランクの荷物を持った。操が部屋の玄関扉を開け、買い込んだいくつもの土産袋を上がりがまちまで運んでくれた広之に


「あがっていただいて、お茶でもどうぞって言いたいけど、美子さんは早くお宅に帰って休んだ方がいいかも知れないですね」


「全く、母は神波さんと一緒だと子どもみたいにはしゃぐと言うか素になるって言うか。普段は店の女将として気を張っているので、神波さんといる時はリラックス出来てるんだと思います。これからも母と仲良くしてあげてください」


広之が軽く頭を下げ、操が慌てて言った。


「広之さん、頭をあげて。こちらこそ、美子さんには気を遣わずに好き勝手を言えるんですから」


そして車に乗り込んだ広之は隣を見て


「神波さん、母が気持ちよさそうに寝てしまってるので、挨拶をさせられずすみませんが、このまま失礼します」


「広之さん、ありがとうございました。美子さんには後ほどご連絡させてもらいます。おやすみなさい」


操がお辞儀をすると、広之も会釈をして車はアパートの敷地を出て行った。

買い込んだお土産を分けて、白ワインとみかんやお菓子などを持つと、操は柏の部屋を訪れた。


「ミサオ!」


珠子がダッシュで玄関に出てきた。


「姫、ただいま」


操は荷物を置くと珠子を抱きしめた。


「帰りが遅くなってごめんね」


「ミサオ心配したよ。無事でよかった」


珠子もしがみ付いた。


「大丈夫よ。上手く事故を避けられたわ」


「母さん、お帰り」


柏たちも玄関に出てきた。


「ただいま。月美さん、姫をありがとうございました。タカシ君もお世話になりました」


と言いながら、操はお土産を月美の前に動かして


「みかんの味が濃くて美味しかったから食べてね。柏にはワイン。みかん味のバウムクーヘンはタカシ君に」


他にも珍味や炊き込みご飯の素や調味料などを渡した。


「こんなにいろいろ、すみません。珠子ちゃんはいつも通り良い子にしてましたよ」


月美は彼女が帰っちゃうと寂しいと言いながら珠子を見た。

そして、操は珠子を連れて


「おやすみなさい」


と隣へ帰っていった。


「帰っちゃった」


孝は呟き俯いた。

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