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ハイツ一ツ谷のホッとな日常  作者: モリサキ日トミ


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操と美子のバスツアー(1)

「バスは間もなく最初の休憩場所に到着します。こちらではトイレ休憩になりますので二十分後には出発します」


ガイドが話し終わると、バスはサービスエリアに着いた。

みんなぞろぞろとバスを降りて建物へと歩いて行った。操と美子も降りて外の空気を吸った。


「あーっ、家の周りとは気温が少し違うわね。寒いけど気持ちいいわぁ」


美子が大きく伸びをした。


「取りあえずトイレに行っておきますか」


「そうね」


ツアー参加者が全員戻るとバスは出発した。


「操さん、これ一緒に食べません」


美子が熱々のお焼きを操に渡した。


「あら、いつ買ったの?」


操が、小さなクラフト紙に包まれたお焼きを両手で包むように持つと


「あったかいわ」


思わず声を上げた。


「私ね野沢菜のお焼きが大好きなの。横目にこれが見えちゃったら我慢出来なくて、気がついたらお店のおばちゃんに声をかけてたわ」


そう言いながら美子はお焼きにかぶりついた。

普段は老舗鰻店の女将として凜と立ち振る舞っているが、今、隣で無邪気に好物を食べている美子に操はとても好感を持った。


「そういえば、珠子ちゃんは一緒に行きたいって言わなかったの?」


美子が聞くと


「最近は彼氏に夢中で、なんだか私から離れて行きそうよ。私は孫離れ出来てないのに」


操が寂しそうに答えた。


「まあ、おマセさんね。彼氏って、結婚式で美雪のベールを持って行進してくれたあの男の子?」


「そう、タカシ君。姫ったら新婚夫婦みたいに毎朝学校に行く彼を見送っているわ」


「素敵じゃない!」


「そうね。相思相愛だからいいわね。私も頑張って孫離れしないとね」


「そうよ。これからは私たち二人でちょくちょく出かけましょうよ」


「でも美子さんは千春ちゃんの顔を見に美雪ちゃんのところに行くので忙しいんじゃない。これから益々可愛くなるわよ千春ちゃん」


「確かに。ねえ、操さんも千春に会いに来て」


「ええ、近いうちに伺うわ。千春ちゃんは珠子が大好きなのよ。珠子を連れてお伺いします」


「ウチのから聞いたわ。珠子ちゃんが抱っこするとご機嫌になるのに、主人が抱こうとしたら大泣きされたって」


かなり落ち込んでたわ、と美子は笑った。

そんな話をしている間にバスは最初の目的地に着いた。

そこではイングリッシュガーデンの散策をしながら、鉢植えの珍しい花や可愛らしいサボテンや、ばらのエッセンシャルオイルなどの買い物が出来るらしい。

戻り時間を確認した後、ぞろぞろとツアー客はバスから降りて自由行動となった。

美しく手入れされた樹木や花壇を眺めながら、操と美子はゆっくり歩いた。


「職人さんが手入れをした庭はいいわね」


操は、動物の形に刈られた木々を見て上手に形作ってるなあと思った。


「操さん、私ショップで鉢植えを買いたい」


美子が言うので、一緒にお店に入った。


「欲しい鉢植ってどんなの?」


「うーん、やっぱり蘭がいいかな。結構面白い形の花のがあるわ」


「蘭て育てるの難しいんじゃない」


松亀(うち)の従業員でこういうのに詳しい人がいるのよ」


「それなら、いいわね。私、あっちのサボテンコーナーを見てくるね」


操は陳列棚をじっくり見て、棘の無い小さな玉型のサボテンを手に取った。


「操さん、いいのあった?」


個性的な形の花の鉢を持った美子がやって来た。


「姫が触っても痛くないように、棘の無いこの子を買うわ」


「いいじゃない」


美子がサボテンにちょんと触った。

二人とも会計を済ませてバスに戻ると、そこそこのツアー客が席に着いていた。

やがて全員が揃いバスは次の目的地へと出発した。


「皆様、次はお待ちかねの昼食です。海鮮焼きのバイキングになります。ご飯に乗せ放題の海鮮丼もありますのでご堪能ください」


ガイドの案内に車内はかなり盛り上がった。

そんな中、操の胸はなぜかモヤモヤしていた。この嫌な感じは何だろう。

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