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ハイツ一ツ谷のホッとな日常  作者: モリサキ日トミ


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282/295

孝、悩む

「ただいま」


孝が小学校から帰ってきた。


「お帰り」


月美はキッチンで作業をしている。


「何を作っているの?」


「フロランタン」


「風呂のランタン?」


「フロランタン。カラメルで和えたスライスアーモンドをたっぷり乗せた焼き菓子よ。香ばしくて美味しいの」


「へえ。出来上がったらタマコのところに持ってっていいかなぁ」


「もちろん」


「じゃあ、出来上がるまで宿題をやってる」


孝は自分の部屋に向かった。

その姿を振り向きながら見ていた月美は


「あの子、大人っぽくなったわね」


感慨深げに呟いた。でも、もう少しすると反抗期が来るのかなとも思った。


「まあ、柏君がいるから大丈夫か」


声に出して月美は言った。孝と柏は、月美の知らないいろいろな事を共有しているみたいで、これからも悩みや苛立ちも二人でぶつかり合ったり慰め合ったりするのだろう。それに祖母の操や孝の大好きな珠子がすぐ傍にいるのも心強い。

神波家に嫁ぎ、柏の妻になって本当に私は幸せだとかみしめる月美だった。


自分の部屋で机に向かってドリルを広げた孝は問題を解きながら、珠子のことを考えていた。今着ているポロシャツは彼女が選んだお揃いのボタンに付け替えたものだ。今朝、顔を会わせた時にペアルックだねと彼女が嬉しそうに言って、お互いのジャケットの前を開けてメーカーの違うポロシャツにつけられたお揃いのボタンを見せ合った。

可愛い。

最近特に珠子は可愛くなった。

だから──孝の胸はきゅんとなる。彼女の傍にいると息苦しくなる時があるのだ。

自分より6歳も年下の幼稚園に通っている幼い女の子に胸がときめくなんて、おれはおかしいんだろうか。

もちろん、前から珠子のことは大好きだ。彼女の友だちの永井葵と仲良くしているのを見ると悔しいような苛々するような気持ちになる。珠子と葵はお互いに同性の友だちとして接しているが、葵は男の子なのだ。孝は二人が楽しそうに話をしているとヤキモチを焼きたくなる。


「おれって……」


変なのかな、と孝は悩んだ。




月美が作っていたフロランタンが出来上がったので、それを持って孝は珠子に会いに操の部屋を訪れた。


「タカシ、いらっしゃい」


珠子がダッシュで玄関のやって来ると、孝の腕を取り奥へ引っ張って行った。


「タカシ君、こんにちは」


キッチンの横を通り過ぎる時、操が声をかけた。

孝は足を止めて


「おばあちゃん、これ、お母さんが作ったの。味見したらとっても美味しかったから、食べて」


焼き菓子の入った深皿を渡した。


「まあ、フロランタンじゃない!」


操が嬉しそうに皿に盛られた焼き菓子を見る。


「風呂ランラン?」


食いしん坊の珠子は孝の手を離して皿を覗いた。


「いい匂い!タカシ、風呂ランラン食べよう」


珠子は、一度離した孝の手をまた握ってダイニングテーブルの椅子のところまで引っ張って行き、彼を座らせた。


「ミサオも座って。私がお茶を淹れてあげる」


「姫、紅茶がいいな。戸棚にティーバッグがあるから、お願い」


「おれも紅茶がいい」


操と孝のリクエストで、珠子は三つのマグカップと紅茶とスティックシュガーとポーションのミルクをテーブルに置いた。


「姫、二つのマグに一つずつティーバッグを入れて」


「もう一つのは?」


「二つのカップにお湯を注いで、しっかりお茶の色が出たら空いてるマグにティーバッグを移してくれる」


「はーい」


珠子は操に言われた通りにして熱湯を気をつけながら注ぎ、二個のマグカップに紅茶が抽出されるとティーバッグを取り出して、もう一つのカップに入れた。そこに熱湯を注いでから二つのティーバッグを揺らすとしっかり色づいた。


「ティーポットを使えばいいんだけど面倒くさいから、このやり方で淹れてもらったの。姫、ありがとう」


「お砂糖は?」


珠子が聞くと


「私はこのままで」


と、操が言う。


「おれも、甘いお菓子だから紅茶は甘くなくていいや」


孝も砂糖はいらないと言った。


「姫は、お砂糖入れようか?」


操がスティックシュガーを手にすると


「わ、私もお砂糖を入れなくていいよ」


と、珠子も言った。

紅茶を甘くすると自分ひとりだけお子様みたいなのが悔しくて意地を張ったのだ。実際、お子様なのだが。


「それじゃ、いただきましょう」


「いただきます」


「私もいただきます」


三人はフロランタンを味わい、紅茶を飲んだ。


「うーん、美味しい」


「紅茶と合うね」


操と孝が頷き合う。珠子もフロランタンを一口食べて


「美味しい!」


感激しながら、二人の真似をしてブラックティーを飲むと


「うっ、渋いかも…」


口をすぼめた。


「姫、お砂糖やミルクを入れていいのよ」


操に言われて、


「うん。そうする」


珠子は素直に砂糖とミルクをカップに入れてスプーンでくるくる混ぜた。そして、ふうふうゴクンと飲むと


「甘くて美味しい。私には甘いミルクティーだな」


幸せそうな顔をした珠子を見て、

──やっぱり可愛い!

と胸の鼓動が大きくなる孝だった。

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