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ハイツ一ツ谷のホッとな日常  作者: モリサキ日トミ


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279/295

チュー

珠子と月美が買い物に出かけた後のことである。

操が、柏に孝を連れてこっちに来ないかと連絡をした。

しばらくすると


「母さん、入るよ」


柏と孝が隣からやって来た。


「いらっしゃい」


操が二人を出迎えた。

そして部屋の奥のソファーに彼らは並んで腰掛けた。


「母さん、タマコと一緒に行けなくてひとりで留守番するのが寂しいんだろう」


柏が、自分たちを呼んだ理由を言い当てると


「そう」


操は素直に頷いた。


「あの子が幼稚園に行っている間ひとりでいるのは大分慣れたんだけど、そうじゃない時にあの子がここにいないとね、昼間なのに部屋の中が暗く感じるのよ」


「母さんにとってタマコの存在は太陽みたいなもんだからな」


わかるよ、と柏は母の気持ちを察した。

そして、


「タカシも、一日一回はタマコの顔が見たいんだよな」


彼が孝の頭を軽く突く。


「そう言うお父さんだって、休日にお母さんと一緒にいられないなんてって拗ねてたじゃ…」


と言う孝の口を手で塞いで、柏は正面で自分たちのやり取りを面白そうに見ている操の目線にそっぽを向いた。


「まあ、寂しい留守番組はここで二人が帰ってくるのを待ちましょう。カシワ、ビールでも飲む?冷えてるわよ」


操が聞くと


「まだ、いいや。月美から迎えに来てって連絡がくるかも知れないから」


温かいお茶が飲みたいと柏は答えた。


「タカシ君は何飲む?サイダーならあるわよ」


「おれも熱いお茶で」


操はお茶を淹れて湯呑みに注ぐとソファーでくつろいでいる二人の前に置いた。


「お昼、何を食べる?」


操が聞くと


「何でもいいよ」


「おれも」


二人とも、スイッチを入れたテレビの番組表をチェックしながら言う。

何だか張り合いがないなぁと思いながら操はキッチンの椅子に座ってお茶を啜った。

ソファーではテレビを見ながら


「なあ、タマコとチューはしたのか?」


さり気なく柏が孝に聞いた。


「えっ、何言ってんの」


孝が驚いた顔で柏を見る。

そして、


「まだ、してない。って言うか、あいつはまだ幼稚園児だ」


顔を紅くしながら孝は答えた。


「女の子はマセてるから、小六のおまえより気持ちは大人だよ」


「それにしたって、どんなタイミングでチューをするんだよ?」


思わず孝が聞く。


「ってことは、やっぱりタカシはチューがしたいんだな」


「それは…」


「それは、どうなんだよ」


「言わない」


孝の顔はますます紅くなり俯いた。


「チューしたいって言えよ」


柏が面白がって孝の脇腹を擽った。

孝は体をよじって


「お父さん、やめろ!」


笑いながら言った。


「やめて欲しかったら、チューがしたいって言えよ」


柏がしつこく擽る。


「思ってても、言わない!」


孝の顔は更に紅くなる。

その時、珠子と月美が帰ってきた。

そして、


「何やってるの!我が家じゃないんだから暴れないで」


じゃれ合っている二人を月美が窘めたのだった。


「つ、月美、お帰り」


「お、お母さん、お帰りなさい」


柏と孝は乱れた呼吸を整えた。


「タカシ、顔が真っ赤だよ。大丈夫?」


月美の後から来た珠子が孝の傍に駆け寄り


「お熱があるの?寒い?」


着ていたボアジャケットを脱ぐと、孝の肩口に掛けた。

珠子のぬくもりが残っているジャケットに、孝は更に更に顔を紅くしながら


「タマコ、ありがとう。熱なんかないよ。大丈夫だよ」


それでも平静を装って笑顔を見せた。

それを横目で見ている柏が口を尖らせてチューの仕草を孝に見せた。が、彼はそれを無視して


「お母さん、欲しいものは買えたの?」


月美に話を振った。


「ええ、買えたわ。そうそう、後で孝のポロシャツを出しておいてくれる」


「おれのポロシャツをどうするの?」


「ボタンを付け替えて珠子ちゃんのとお揃いにするの」


と言う月美に、珠子が嬉しそうに頷いた。


「そう。タカシとお揃いのボタンを付けてペアルックにしてもらうの!」


「そうか」


少し顔のほてりが取れた孝に


「ペアルックが出来たら、それを着てデートしよう。タカシ」


珠子が彼のほっぺたにチュッとした。その途端、孝の鼻から血がつうっと流れ出た。

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