月美とお買い物(2)
「これで衣装作りはバッチリよ」
布地や装飾用の材料を購入して手芸店を出ると、月美と珠子は大通りを駅へ向かって歩いた。
「珠子ちゃん、喉が渇いたでしょう。どこかでひと休みしようか」
「はい!」
二人は通りに面したカフェに入り窓側の席に着いた。
「お腹が空いたんじゃない?パスタ食べる?」
「プリンアラモードがあれば食べたいな」
珠子はプリンパフェを、月美はチョコケーキと紅茶のセットを注文して
「いい天気ね」
窓の外から射し込む、大分葉の落ちた街路樹の枝をすり抜けた日射しに月美が目を細めた。
テーブルに届いたプリンパフェを珠子がスプーンで掬い口に運ぶ。
「美味しい!このプリン凄く美味しいです。タカシにも食べさせたい」
幸せそうな顔でプリンを味わう珠子を月美が見つめた。
その目線に気づいて
「口の周りにクリームがついてる?」
珠子が慌てて紙ナプキンで口を押さえる。
「タカシが傍にいると、すぐに気がついて拭いてくれるんだけど」
と、恥ずかしそうに言った。
「珠子ちゃん、孝のことをいつも思ってくれてありがとう」
月美がうっすら目に涙を浮かべた。
「えっ、どうしたの?大丈夫ですか?」
月美の様子に驚いた珠子が心配そうに彼女を見た。
「珠子ちゃんはもちろん知ってるでしょうけど孝はね、柏君と出会うまで私がとても苦労をかけたの。柏君が私なんかと結婚してくれて、私もそうだけど孝も本当に幸せになれた。やっと子どもらしい伸び伸びとした毎日を送れるようになったの」
「月美さん、私なんかって言わないで。カシワ君も月美さんと家族になって、とっても幸せそうだよ。私だって月美さんと親戚になれてよかったって思ってます。それにタカシと毎日会えるのがとっても嬉しいの」
珠子は、毎朝孝が元気に学校へ行く姿を見送る時間がとっても好きだと言った。
「これからも、あの子を好きでいてね」
「もちろんです!」
元気いっぱいの珠子の声に、他の席の客が一斉にこちらを向いた。
カフェを出て
「甘いものを食べたから元気いっぱいです」
珠子は月美と手を繋いだままスキップをした。その無邪気な様子に月美はクスッと笑いながら幸せをかみしめた。
「珠子ちゃん、お義母さんと柏君たちに何か美味しいものをお土産に買いましょうか」
「うん。何がいいかなぁ」
結局、月美がお気に入りの皮が薄くてパリパリしたあんこがたっぷり入ったたい焼きを買って家路についた。
「ただいま!」
珠子が元気よく言って玄関扉を開けた。
「姫、お帰り。月美さんお帰りなさい。タカシ君とカシワがこっちにいるわよ。さあ、あがって」
「月美さん、奥に行こう」
操と珠子に促されて月美は靴を脱いだ。
「ミサオ、お土産。トースターで温め直すと皮がパリパリになるって、お店の人が言ってたよ」
珠子からたい焼きの袋を渡され、操が受け取ると
「ありがとう。早速温めていただきましょう。月美さんと姫は手を洗ってソファーで休んでて」
キッチンへ向かった。
珠子たちが手を洗い部屋の奥に行くとソファーで柏と孝がじゃれ合っていた。
月美が荷物を部屋の隅に置いて
「何やってるの!我が家じゃないんだから暴れないで」
と、二人を窘めた。
「だってお父さんが…擽るんだよ」
孝が言い訳をする。
月美がじろりと柏を見る。
「いや、タカシがタマコタマコってうるさいから…」
「うるさいから、どうしたの?」
「いや…ごめんなさい」
柏は素直に謝った。
彼は孝の名誉のためにじゃれ合っていた本当の理由を言わずに謝ったのだ。
「あんたたちは本当に仲がいいのね」
操が温めたたい焼きとお茶を持ってきた。
「さあ、月美さんと姫のお土産をいただきましょう」




