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月美と孝の新年の挨拶

三が日が過ぎて操の部屋では珠子と二人、いつも通りの静かな午後を過ごしていた。

もっとも、午前中は警察官が二人でやって来て、昨日ここに謝罪のため訪れた大島かの子が、その足で駅前の交番に自首をした件でいろいろと聴かれて気持ちが少し張り詰めた。かの子がどこまで供述したのか…自分たちの『力』については口にしないと思うが、彼女がどのような事を喋ったのか警察官が発する気配を読みながら聴取に応じた。

最後に、操はこの件について、かの子から誠心誠意謝罪してもらったことと彼女の不幸な出来事を理解しているので被害届は出さないと伝えた。


昼食後、午後の暖かな日射しを浴びながら


「姫」


操が珠子を呼んで二人でソファーに座ってのんびりお茶を啜った。


「ミサオ元気になって良かった」


珠子は両手で操の腕にぎゅっと抱きついた。このひとときが操にとって何ものにも代え難い幸せな時間だった。


「これからは、お散歩もいっぱい行けるね」


珠子が窓の外を見ながら微笑んだ。

その時インターホンが鳴った。


「こんにちは。山口月美です」


「はーい」


操は返事をして玄関の扉を開けた。月美と孝が立っていた。


「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」


新年の挨拶をした二人を


「入って入って。外は寒かったでしょう。中へどうぞ」


奥に連れて行き、日当たりの良いソファーに座ってもらった。


「改めて、あけましておめでとうございます。こちらこそよろしくね」


操が挨拶をした。


「珠子ちゃん今年もよろしくね」


月美が挨拶すると珠子もにっこり笑ってちょこんと頭を下げた。


「タカシ君シュークリームあるわよ食べる?」


操が声をかけると孝は大きく頷いた。


「いただきます」


「ミサオ、私も食べる」


珠子が催促した。


「わかってるわよ」


珠子と孝がシュークリームにかぶりついているのを横目に、操は月美に大島かの子の事を話した。


「カルチャーセンターの先生が犯人だったんですか。私、あそこで仕事を始めて日が浅いけれど、顔つきも態度も怖い人ってスタッフの間では有名だったみたいです」


月美はツンとした書道の講師の顔を思い浮かべた。


「月美さんに、いろいろと協力してもらったり気を遣わせたりしてすみませんでしたね。おかげさまで問題も解決して、私も姫もほっとしてます」


操が頭を下げた。


「やめてください。私こそ操さんを始め、神波の皆さんのおかげでこうやって元気に過ごせているんです」


「じゃあ、お互いさまでハッピーね」


「はい」


二人で笑い合った。


「で、体調はどう?」


「おかげさまで問題ないですし、毎日忙しくさせてもらって体を適度に動かしているせいか、調子いいです」


「それは良かった」


「これからしばらくの間、新入学や新学期に向けてお道具用バッグや巾着袋の製作依頼が入っているので充実感でいっぱいなんです」


「私に手伝えることがあったら遠慮しないで言ってね。ここだけの話、私ね裁縫は全くできないので他のことなら手伝うから。タカシ君を預かるのとかはいつでも大丈夫だからね」


「ありがとうございます。私、甘えん坊なんでちょくちょく甘えさせてもらいます」


操と月美が話をしている間、少し離れた場所にしゃがんで孝が珠子に小声で質問をしていた。


「ねえタマコッてさ、あっ、ごめん。タマコちゃんさ」


「タマコでいいよ、タカシ」


「うん。タマコってさ、例えばおれが今何を考えているのかわかるの?」


「わからないよ。人が考えていることを知るためには、凄くすごく集中しないとダメなの。それってとっても疲れるんだよ。だから、こうやって面と向かって話をしていてもタカシが何を考えているのかなんてわからないよ」


「そうか。ちょっと安心した」


「なんで?」


「だって、恥ずかしいじゃん」


「なんで?」


「だってさ、例えば例えばだよ、おれがタマコのことを好きだとするじゃん」


「タカシ、私が好きなの?」


「だから例えばだって」


孝が両耳を紅くして否定する。


「おれの好きって気持ちが知られたら、おれ恥ずかしいだろ。あ、今の話は何度も言うけど例えばだからな」


「大丈夫。普通に話をしてるときは何も感じない。でも、今のタカシの態度で私のことが好きなの、誰でもバレバレだと思うよ」


さらりと言い放った珠子に、孝はいよいよ顔中真っ赤になってうつむいた。

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