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ハイツ一ツ谷のホッとな日常  作者: モリサキ日トミ


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操、不安になる

「やっぱり、あいつだ」


孝が言った。


「やっぱりって、この人を知っているの?」


操はダイニングテーブルを挟んで正面に座っている孝を見つめた。


「タマコ、この顔覚えてるだろう」


孝は隣に座っている珠子に操のスマホを見せた。


「ほら、この間行った『フラワ・ランド』でさ、

ステージに立っていたアイドルがストーカーから逃げて、でも見つかって襲われそうになったところをタマコが助けたじゃない。ええと、ソラさんって名前だっけ、逃げていたアイドル。キラキラした衣装を着てた人」


「ああ、キラキラのお姉さんを追いかけてた男の人の動きを止めたことがあったね。お姉さんの顔は覚えているけど、男の人の顔はあまり記憶にないな。動きを止めさせることに集中するから相手の目は見るんだけど、それ以外はわからないの」


「でも、間違いないよ。この男だ。おれは覚えてる。こいつがタマコに逆恨みをしてるってことだよ」


孝が怒りを抑えながらも眉間に皺を寄せて言った。


「そういうことなのね。ストーカーをするような人だと、かなりしつこそうね」


ため息交じりに操が呟いた。


「しつこいだけじゃなくて、危険だよ。あの時だって手に何か光る物を持ってソラさんを追いかけてた。もしそれが危害を加える物だったら、怪我を負わされてたかもしれない」


孝は最悪な事態を考えてしまう。

とにかく珠子のことが心配なのだ。


「ねえ、その人ってもうソラさんのストーカーはしなくなったのかしら?姫を追い回すのって、時間も労力もそれなりにかかるわよね。ソラさんと姫を同時に追うことは出来ないでしょう」


操が、全く何を考えてるんだか理解できないわと嘆く。


「おばあちゃん、これ」


孝がパーカーのポケットから一枚の名刺を出した。

操がそれに目を通す。


「これは、芸能プロダクションの名刺ね」


「そう。ソラさんのマネージャーみたいな男の人からもらったんだ。気が向いたら連絡してって言われた」


「それって、タカシ君がスカウトされたんじゃないの?」


あなたは最近、ますます格好よくなってるものと、操が言う。


「違うよ。最初タマコに渡そうとしたんだ。でも力を使いすぎて話すのもしんどそうだったんだ。それで、おれのところに来たんだよ」


「そうなの?姫」


「うーん、よく覚えてない」


珠子はその時の記憶については曖昧だった。お昼にフラワ・ヤキソバを食べたことはよく覚えているのだが。


「その名刺の番号に電話して、ソラさんを追いかけてた奴について聞いてみたらどうかなって思って」


孝が提案する。彼は、なんとかして珠子をストーカーから守りたいのだ。


「そうね。あの変質者について少しでも情報が欲しいわね」


操は早速名刺に印字された番号に電話した。

何回か呼び出し音が鳴った後、男性が出た。


「突然すみません。私、神波と申します。そちらの事務所に所属してらっしゃるソラさんに関する事でお電話させていただきました」


操が『フラワ・ランド』でのソラに対するストーキング行為が起きた件のその後について尋ねると、彼女の顔色がどんどん悪くなるのが、正面で見ていた孝を不安にさせた。

僅かではあるが、情報を教えてもらいメモをして、明日病院に伺いますと言って操は通話を切った。そしてため息を吐いた。


「おばあちゃん、どうしたの?」


孝が前のめりになって聞いた。


「うん」


操は返事を一つしたきり黙り込んでしまった。


「姫、明日は幼稚園をお休みしましょう」


やっと口を開いた操は珠子に言った。


「どうしたの?ミサオ」


「おばあちゃん、ソラさんの事務所の人は何て言ってたの?」


珠子と孝が、ただならぬ操の表情に不安になって聞いた。


「ソラさんね、暴漢に襲われて今入院してるんですって。それもかなり重篤な状態らしくて」


「いつやられたの?あいつにやられたの?」


孝は矢継ぎ早に聞く。


「明日、私は彼女が入院してる病院に行ってくる。そこで事務所の人と会う約束をしたので話をしてくる。姫は月美さんに預かってもらうわ」


「ミサオ、私も一緒に行くよ。ミサオだって危険だよ!」


「ダメよ。今回は姫の希望を聞いてあげられない」


「嫌だ!ミサオと一緒に行く!」


いつもになく珠子がごねる。


「姫、お願い。私の言うことを聞いて」


普段は孫に甘い操も今回は意見を曲げない。


「ねえ、おれのお母さんも一緒に行ったらどうだろう。おばあちゃんとタマコとお母さんと三人でさ、ここのドアから病院のドアまでタクシーに横付けしてもらってさ」


孝は、本当はおれも一緒に行きたいけどなと言った。


「ミサオ、ミサオと私がソラさんに会ったら、目を覚ましてくれるかもしれないよ」


珠子は微かな希望を口にした。


「…だと、いいわね。タカシ君、月美さんに明日付き合ってもらっても大丈夫か聞いてもらっていいかしら」


操が孝にお願いすると、彼は頷き月美に電話をかけた。

スピーカーにして話をすると、


「お義母さん、私も明日一緒に行かせてください」


月美の言葉に


「病み上がりなのに申し訳ない。よろしくお願いします」


操は頭を下げた。

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