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ハイツ一ツ谷のホッとな日常  作者: モリサキ日トミ


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【すみっこ噺2】僕は梨が好き

僕はノッシー。

ロシアともホルスフィールドともヨツユビとも呼ばれているリクガメだ。

神波(かんなみ)柏と柊の兄弟に連れてこられて、今はこの場所にいる。

僕の目の前にはそこそこ広い世界が広がっているが、なぜか見えている先の方に行くことができない。ザクザクと地面を歩いて行くが突然何かにぶつかってそれ以上は進めない。まるで透明な壁が立ちはだかっているようだ。東西南北、四方にこの透明な壁はあって僕の縄張りは歩いて何かにぶつかるまでの広さなのかと納得するしかなかった。

それでも住めば都で狭いながらも快適に過ごすことができた。

縄張りの、ある一角では上から暖かい光が降り注ぎ、そこでのんびりしていると日向ぼっこをしているみたいになる。

それ以外に、僕の縄張りを紫外線と呼ばれる光が照らしているらしい。僕自身は何も感じないが、どうやらこの立派な甲羅のために必要らしいのだ。

少し離れたところには隠れるための穴の開いた岩のような物があり、僕は時々その中で瞑想にふける。

それを見た柏たちは


「ノッシー、また寝てるぜ」


って言うが、あくまでも僕は瞑想にふけっているのだ。まあ、何を想い考えていたのかは全く覚えていないが。

そして縄張りには僕と同じぐらいのサイズの池もある。中の水は柏や柊が毎日入れ替えてきれいなので、僕はそれを時々飲んで喉を潤す。

僕の縄張りには僕しかいないので実に快適だ。自分の歩きたいときに歩き、眠りたいときに眠り、おしっこをしたいときにジャーとして、そのとき一緒にヨーグルトのような尿酸も出す。しばらくするとそれは固まって、その辺りの床材は柏や柊によって取り除かれ清潔が保たれる。

僕が楽しみにしているのは、朝と晩、一日二回のごはんの時間だ。大体は小松菜やチンゲン菜だ。僕専用の皿に盛られ縄張りに置いてくれる。これでお腹をしっかり満たす。朝はこの青菜以外に、りんごの薄切りが付く。甘くて美味しい。

ある朝、皿の上には小松菜とその隣に見慣れない物が乗っていた。りんごの匂いではない。何だろう?

僕は慎重派なので、とりあえず小松菜を食べてお腹を満たした。一緒に盛られた薄切りの物は、りんごほどでは無いが甘い匂いがする。くちばしで軽く突いてみる。りんごより柔らかい。思い切って咥えてみた。噛むと甘い水がじゅわっと出た。美味しい!何だこれ!


「ヒイラギ見ろよ。こいつこれが好きみたいだぞ」


柏が弟を呼んだ。

そして柊もやって来て、僕のデザートタイムを見つめている。


「ホントだ。ノッシー、美味いか」


柊が話しかけてくるが、僕は脇目も振らず目の前のこの美味しい食べ物に夢中になっていた。


「ノッシー、これが食べられるのは今のうちだぞ。旬が過ぎると今度食べられるのは一年後だからな。よーく味わえ」


言われなくても味わってるよ、と反論する余裕などない。と、いうか僕は喋れないが、とにかく美味しい。

それは『梨』という果物らしいが、僕にとって名前などどうでもいい。とにかく僕はこれが大好きだ。

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