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ハイツ一ツ谷のホッとな日常  作者: モリサキ日トミ


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久しぶりに操と図書館へ

日曜日の朝、珠子はダイニングテーブルの椅子に座って、鰤の塩焼きを口に入れ味わいながら艶やかなご飯を頬張った。


「ミサオ、美味しい!この鰤、ご飯に合う!」


「美味しい?良かったわ」


焼き魚を食べるのが下手くそな珠子のために、ほぼ骨の無い鰤の切り身の僅かな骨を丁寧に取り除いて出したので


「ごちそうさま」


塩焼きを乗せていた皿の上は綺麗に無くなっていた。


「姫、ブロッコリーも食べてちょうだい」


汁椀やご飯茶碗を下げながら茹でブロッコリーの器だけがテーブルに残った。


「鰤が美味しすぎてご飯をおかわりしたら、お腹がいっぱいになっちゃった」


珠子は、ブロッコリーを食べなくてすむように話を持っていこうとしたが、操には通用しない。


「姫、シーザーサラダドレッシングで和えたから美味しいわよ。チーズの味、姫は好きだと思うけど」


「そうかなあ」


「そうよ。試しに一つ食べてみて」


操に言いくるめられて珠子は小さな塊を口に入れる。


「本当だ。美味しい」


「オリーブオイルと粉チーズで和えるより、こっちのドレッシング方が姫は好きなのよね」


「うん。このドレッシングは美味しいね。ブロッコリー頑張って食べます」


「よろしい」


テーブルに一つ残っていた器も空になり


「ごちそうさまでした」


珠子の朝ごはんは終了した。


「ミサオ、今日は何する?」


ブロッコリーを食べ終えた器をシンクに運びながら珠子が聞くと、


「何をしようか。今日は買い物に行かないし、ソファーでゆっくりしてようかな」


操は食器を洗いながら答えた。


「それじゃ、私はタカシのところに行ってこようかな」


「姫、タカシ君は昨日一日あなたにつき合ってくれたんだから、今日はここにいなさい。彼だって宿題をしたり何か用事があったりするかも知れないわ」


「わかった。じゃあ私がタカシの宿題を手伝ってあげよう」


と言う珠子を操が軽く睨む。


「姫、今日はここにいてちょうだい。そうだ、一緒に図書館に行って絵本を借りてこようか」


操がお茶を淹れながら提案する。


「じゃあ、人魚姫の絵本を借りたい」


「わかったわ。そう言えば、クリスマス会でやる劇の台本は、もらってないのよね」


「明日、みんなに配るんじゃないかな」


「台本より役を先に決めたのね」


「台本は中山先生が考えて、とっくにできあがっているんだと思うよ。きっとその台本を見て、やりたい役をみんなに聞くと決まらなくなっちゃうんじゃない」


「そうか。中山先生がばら組のみんなをいつも見ているから、それぞれの適役を決めてくれてるってことね」


「適役って?」


「その人その人の性格や行動を見て、この子にはこの役がぴったりだなってこと」


操の話を聞いて


「それじゃ、怖い魔女の役が私にぴったりってこと?」


珠子はがっかりした。


「姫が選ばれたのは、演技力とか表現力が優れているからよ。運動会の時のダンスで、姫は花や鳥や風や月を体の動きや顔の表情で表現したのが素晴らしかったもの。だから怖い役も姫なら演じられるって中山先生は思ったんじゃない」


「そうかなあ」


「絶対そうよ」


「葵ちゃんもミサオと同じことを言ってた」


お茶を啜りながら食後のひとときを過ごすと


「さて、出かけましょうか」


操と珠子は手を繋いで図書館へ向かった。


「幼稚園の送り迎え以外で姫と手を繋いで歩くの、何だか久しぶりな気がするわ」


「そんなことはないと思うけどな」


「このところタカシ君とよく出かけていることに、少しヤキモチを焼いてるのかもね」


と言いながら、操は珠子を見た。


「そんなにタカシとお出かけしてるかなぁ」


「実際はそんなことないんだけど、姫の気持ちが外に向かっているのが寂しいのね」


「気持ちが外に向かってる?」


「つまりね、少し前までは私と一緒に過ごすことが姫の生活の大部分だったの。最近は、姫が大きくなって幼稚園でお友だちと過ごしたりタカシ君とデートをしたりと、私と過ごす時間が短くなってきたわけ。姫の世界が私たちの部屋から外へと広がっていってるの」


「私は、今までと何も変わってないと思うけど」


「わかってる。それに姫の生活が外に向かっていくのはとっても良いことなの。それを寂しく思うのは私の我が儘なのよ」


操が心なしか元気なく言う。


「ミサオ、ミサオの言う通り私が外に向かっているんだとしたら、それは私はタカシとデートをしたいし幼稚園で葵ちゃんたちと遊ぶのも楽しいけど、その後ミサオのいるお家に帰れるから、外に行くんだよ」


珠子は操の目をしっかり見つめた。

操は無言で嬉しそうに笑顔で返した。言葉を発すると泣いてしまいそうだったから。

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