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神波のみんなが揃って

「この人が」


操は柏から渡された相手の名前と住所と電話番号が記されている紙を見つめた。


「そう。タマコの話を聞いて、母さんとタマコに申し訳なかったって言っていた。後日お詫びに来るって、そして罪を償うって」


柏が言いながら、眠っている珠子をベッドに寝かせて操の座っているところに戻ってきた。


「タマコ、凄かった。なんか何でもお見通しっていうか、神懸かっていた。四歳児の言葉じゃなかった」


柏が操の前に座ると今日の出来事を順序立てて話をした。


「姫は、この人が姫と私に対して起こした一連の出来事の首謀者なのを知っていたってことね」


操は珠子が背負っていたシロクマのリュックを抱きしめながら言った。


「神社から帰ろうとした時、すれ違ってすぐわかったみたい」


「そうなの」


「カルチャーセンターでも見かけたみたいだよ」


柏の話を聞いて、操はこの間行った時に受付の大田恵からもらった教室と講師の一覧表を見た。

書道教室の講師名が大島かの子だった。操たちが廊下ですれ違った時、恵が会釈をしても全く頭を動かさなかった人。


「で、姫と大島さんのやりとりを見ていてカシワ的には、どう感じたの」


「始めは相手の言葉も態度もあんな幼い子どもに対して敵意むき出しだった。でもタマコの寄り添うような相手を思いやる話に大島って人が号泣して、あいつ背中を擦ってやってた。タマコって生まれてまだ四年しか経ってないのに、俺なんかより人生経験豊富な大人みたいだったよ」


柏はカフェでのやりとりを思い出して改めて珠子の凄さを感じていた。


「そうだ、母さんの電話番号教えちゃったよ。近いうちにかってくるかも」


柏が言い終わらないうちに着信があった。


「この番号」


操が電話に出る。


「もしもし、神波です」


──もしもし、わたくし先ほど神波珠子さんと神波柏さんにお話をさせていただいた大島かの子と申します


「はい。今さっき息子から聞きました」


──私が犯しましたこれまでの数々の非道な行い大変申し訳ございませんでした。改めて直接お会いして謝罪したいのですが、明日お伺いしてもよろしいですか?まだ三が日中なのでご都合がございましたら、もう少し経ってからにいたしますが、数々の無礼をしてしまいましたので早く頭を下げたい気持ちでいっぱいでございます


「私は構いませんが、明日は子どもたちが集まりますが、そちらがよろしければ、いらしていただいても結構です」


──ご家族の皆様にもご迷惑とご心配をおかけしてしまいましたので謝罪させてください。明日十一時ころお伺いします。


「わかりました。それでは」


──ごめんください


通話が切れると、ふうっと操は息をついた。




翌日、操の部屋は息子たちと娘たちが集まってがやがやと賑やかだ。


「珠子、ただいま。久しぶり!」


父親の源が珠子を抱き上げた。


「パパお帰り。あけましておめでとう」


珠子もぎゅっと抱きついた。

年末に鴻が源の赴任先の住まいに行き大掃除をして、先ほど夫婦でこちらに戻ってきたのだ。


「源は、いつまでこっちにいられるの」


操が尋ねる。


「うーん、五日の朝に向こうに戻る」


「わかった。まあのんびりなさい。コウちゃんもお疲れさま。今日は座って休んでいて。人手はいっぱいあるから」


「ありがとうございます」


鴻は源から珠子を受け取ると


「珠子、こうやって抱っこすると大きくなったのがわかる。重いわ」


しっかり抱きしめた。


「ママ、あったかい」


鴻の腕の中から下りると、今度は


「タマコ、あけおめ」


柊が珠子にハグをした。


「ヒイラギ君おめでとう」


「タマコ、おまえの武勇伝をカシワから聞いたぞ」


「私も聞いた。珠子、こわいおばさんを言い負かしたんだって。どうやって論破したの?」


茜も興奮気味に聞いてきた。


「言い負かすとか論破とかしてないよ」


珠子は首を横に振った。

神波ファミリーがわいわいがやがやしている中、ぱんぱんと操が手を叩いた


「みんな聞いて。これからここを訪ねてくる人がいます。その人の行動で、姫や私は恐怖心を植えつけられました。私たちはその人にとっての言われの無い憎しみの対象になっていたからです。でも、昨日、姫がその人と話をしてその人の凝り固まった負の気持ちを溶かすことができたの」


一気に話した操は、ふうっと深呼吸をした。そして話を続けた。


「これからその人がここに来るの。私たちに謝罪をしにね」


「私たちがいてもいいの?」


藍が聞いた。


「うん。その人が私たちに嫌な思いをさせてしまったから、みんなに謝罪がしたいんだそうよ」


「ねえ、その人の謝罪って信じていいの。謝る振りして暴れたりしないよね」


柊は今までのことを考えると急に気持ちが変わるとは思えなかった。


「ヒイラギ君、大丈夫だよ。大島さんはきらりちゃんと一緒だから」


珠子が言った。


「?、タマコの言っていることが俺には理解できないんだけど」


「きらりちゃんはタマコとほぼ同じ時に同じ産院で生まれたんだけど死産だったんだ。で、大島さんはきらりちゃんのおばあちゃん。自分の孫はもういないのにタマコは元気に幸せに生きているのが許せないって、つまり理不尽な逆恨みなんだけどね。だけど、大島さんの手ときらりちゃんの手は大きさ以外は形も手相も指紋の渦巻きも一緒なんだって。だから寂しいときは自分の手を見てって。それはきらりちゃんの手でもある、そういうことだよな、タマコ」


柏が説明すると珠子は頷いた。


「そういうこと」


十一時を回ったころインターホンが鳴った。みんな一斉に同じ方向を向いた。

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