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ハイツ一ツ谷のホッとな日常  作者: モリサキ日トミ


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キラキラ衣装を助ける

遊園地のベンチに座って珠子と孝はクリームソーダを飲んでいた。


「タマコ、ジューススタンドで割り込んできた女の人にさ、何を感じたんだ?」


孝はストローから口を離して珠子に聞いた。

下の方がスプーンのようになっているストローでソフトクリームを掬って口に運ぶ珠子が周りをチラリと見回し、そして言った。


「あの女の人、ここのステージみたいなところで新曲の発表会なのか、ファンへの顔見せなのかわかんないけど、そういうイベントに出ていたみたい。その時、見に来た人の中に異常なくらいしつこく後をつけてくる人がいるのが見えて逃げ出しちゃったんだよ」


「今日ここに人がたくさん入場してたのって、やっぱり催し物があったからファンが集まっていたのか。で、その中にストーカーがいたってことか」


「うん。それであの女の人、パニックになっちゃったんだね」


最後の一口になってしまったソフトクリームを名残惜しそうに口に運びながら珠子が言った。


「藍さんのこともそうだけど、結構ストーキングするやつっているんだな」


孝がぼそっと呟いた。


「はじめは純粋に好きだって思うだけなんだろうけど、その気持ちがどこかでおかしくなっちゃうのね」


6歳とは思えない見解を珠子が言った時、二人の目線の先でキラキラ衣装の女の人がスタッフらしき人たちに連れ戻されているのが見えた。


「あの人見つかっちゃったな」


「そうだね。ん、待って。タカシ、あそこでストーカーが様子を窺ってるよ」


「えっ、あいつ何かを持ってる。なんか先が尖ったものだ」


「タカシ、これ持ってて」


珠子は立ち上がると飲みかけのソーダが入った紙コップを孝に渡し、


「おねーさーん」


と言ってキラキラ衣装とそのスタッフのところへ走り寄った。足を止めた一行が珠子と話をしているようだ。

その刹那、


「ソラぁー」


と叫びながら何かを手にした男が飛びかかって来た。思ったより素早い動きでソラという名のキラキラ衣装の女の人へと、その男は突進して来たのだった。スタッフはフリーズしてしまい、このままだと確実に怪我人が出てしまう。

珠子は襲って来た男の正面に立ち強い眼線を送った。男の動きが一瞬止まり、その間にスタッフたちが取り押さえた。

珠子はよろよろしながら孝のところへ戻って来た。孝は紙コップをベンチに置いて珠子に走り寄り抱きとめた。


「大丈夫か」


「うん」


「相変わらず無茶するんだから」


「うん。思ったよりストーカーの攻撃が早かった」


珠子をベンチに座らせて、彼女の肩を抱くように孝も隣に腰を下ろした。

先の方では、警察が到着するまでスタッフが男を倒して押さえつけたままでいた。

そして警察官が駆けつけストーカー男を確保すると、そこにいる人たから話を聞いていた。

その後、キラキラ衣装のソラとそのマネージャーらしき人が、こちらに向かって来る。

そして珠子の前で頭を下げた。


「お嬢さんありがとうございました。おかげで彼女は無事助かりました。何かお礼を…」


「結構です。お姉さんが怪我をしなくて良かったです。向こうでお姉さんのファンが待ってるんでしょう。早く行ってください」


と珠子は疲れた顔で、マネージャーらしい人の話を遮りステージに戻ってと言った。あまり関わりたくないのだ。

ストーカーは警察官に連行され、ソラという名のアイドルのスタッフが他の警察官に名刺を渡し、これまでの経緯を説明してやがて皆いなくなった。

今、珠子と孝の目の前にあるのは平和で賑やかな遊園地の景色だった。


「体、大丈夫か」


孝が、ズズズーッとストローを吸いながら空になった紙コップを悲しそうに傾げていた珠子に聞いた。


「うん。大丈夫。ただ、飲んでる途中で動いちゃったから、クリームソーダをしっかり味わえなかった」


「それって、おかわりしたいっていうアピールか?」


孝は、全くおまえって…可愛いなと思った。

今隣に座っている珠子は、さっきストーカーの男と対峙した彼女と同一人物と思えなかったのだ。


「タカシ、お昼を食べたらメリーゴーラウンドに乗ろう」


お昼はフラワ・ヤキソバとクリームソーダがいいなと、珠子が言った。


「わかった。それじゃフードコートに行くか」


孝がベンチから立ち上がり、さしだした手を珠子が握った。

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