表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハイツ一ツ谷のホッとな日常  作者: モリサキ日トミ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

246/295

いつもの珠子に

「孝です。ハッピーハロウィーン!タマコいる?」


小学校から戻った孝が操の部屋のインターホンを鳴らした。


「タカシ君、開いてるから入って」


操の返事があったので玄関扉を開けた。

いつもなら遅くともこのタイミングで、本来ならインターホンで話している時に珠子がダッシュで彼を出迎えるのに、今日は姿が見えない。月美から手作りクッキーの入ったラッピング袋を持たされた孝は部屋にあがりキッチンを覗いた。


「ハッピーハロウィ…」


誰もいない。

奥のソファーのところに行くと、そこに座っている操の膝枕で珠子が横になっていた。


「おばあちゃん、タマコどうしたの」


「タカシ君、出迎えなくてゴメンね。今、姫は甘えん坊モードなのよ」


どうやらトリック・オア・トリートとはしゃぐ状態ではなさそうだ。


「タカシ、いらっしゃい。今朝、見送れなくてごめんなさい。今ねミサオにくっ付いていたいの」


珠子は小さな声で言った。


「タマコ、体調が悪いんじゃないのか」


珠子たちと向かい合って孝はソファーに座った。


「昨夜から何も口に入れてなくて、今朝は脱水症状になりかけたの。さっき、やっと砂糖水を飲んで炊き込みご飯を一口食べてくれたのよ」


だからまだ体が動かせないみたい、とため息を吐きながら操が言った。

昨夜、何があったんだ?と聞きたかったが、それを堪えて


「そうか。これ、お母さんから。体調が落ち着いたら食べて。かぼちゃのクッキーだよ」


孝が紫の飾りリボンで口を閉じたオレンジ色に黒いコウモリが一つプリントされた袋をローテーブルに置いた。そして、長居をして珠子が疲れるといけないと思いソファーから立ち上がった。


「タカシ君、ありがとね。月美さんによろしく」


操が彼を見ると、頷いて


「今日は帰るね。お大事にな」


と、言って帰ろうとした孝を珠子が小さな声で呼び止めた。


「タカシ」


振り向くと、こちらを見つめている。


「どうした?」


「うん。なんでもない。せっかく来てくれたのに、私がこんなでゴメンね」


「気にすんな。元気になったら一緒に出かけような」


「うん」


玄関の方へ歩いて行く孝の後ろ姿を珠子は見続けた。

玄関扉の閉まる音が聞こえて、


「ミサオ」


珠子は膝枕をしてもらったまま呼ぶと


「どうしたの」


操が顔を下に向けて聞く。


「今ね、帰ろうとしたタカシの気持ちを感じようとしたの」


「そう。そうしたら?」


「そうしたら、何でだろう。やっぱり感じられなかった。ミサオの気持ちを感じられなかったのと同じだった。何でだろう。タカシは普通の人なのに」


珠子の疑問に操は


「それは簡単よ。姫にとって彼は特別だからだわ」


「ママだって特別だけど、思いを感じられるよ」


「コウちゃんとは別の特別なんじゃない」


「そうなのかなぁ」


「きっとそうよ」




翌朝、孝が玄関から外に出た途端


「タカシ、おはよう」


笑顔でこちらを見ている珠子の姿があった。


「おはよう。体調、大丈夫なのか」


「うん。幼稚園はお休みするけど、タカシにいってらっしゃいを言いたかったから」


「そうか。寒くないのか?」


孝は珠子の額に手を当てて熱がないか確認をした。


「大丈夫だよ。クッキー美味しかった」


「食べたか?」


「うん。月美さんにお礼を言わなきゃ」


「気にしなくていいよ。今日一日安静にしてな」


「わかった」


「それじゃ、いってきます」


「いってらっしゃい」


お互い手を振った。

珠子は部屋に戻ると


「ミサオ、朝ごはんなあに?」


キッチンへ向かった。


「つるんと食べられる茶碗蒸しよ。もちろん出来合いのやつだけど」


ミサオはスーパーで買ってきた茶碗蒸しの上部のシートに爪楊枝で穴を開けて、レンチンしている。

珠子は食器棚からふりかけを取り出すと、それを持って自分の椅子に座り、操が茶碗にご飯をよそって彼女の前に置いた。さつまいもとしめじの味噌汁と辛くないキムチが並べられ、温まった茶碗蒸しが出されると


「いただきます」


珠子は元気よく言った。味噌汁を飲んで


「うーん美味しい」


と言いながら、ご飯にふりかけをかけてスプーンで口に運んだ。そのスプーンで茶碗蒸しを掬おうとすると


「姫、熱いから気をつけて」


操に言われて、一度唇に当ててから口に入れた。出汁とつるりとしたのど越しに


「美味しいね」


と幸せそうに笑った。

それを見て、いつもの珠子に戻って良かったと操はほっとしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ