一緒にお風呂
夜、浴室で
「ミサオ、今日は楽しかったね。まあ私は悔しいこともあったけど」
「裸足で歩くのも悪くなかったわね」
一緒に浴槽に浸かりながら珠子と操が昼間に元太とはしゃいだことを振り返っていた。
元太が裸足で芝生の庭に飛び出し走り回っているのを見て、珠子も思わず裸足で芝生を踏み締めたのだった。
そこに孝が加わって、三人で騒ぎながら追いかけっこを始めた。もちろん元太は追いかけっこなどという認識はない。ただ芝生の上で、左右の足を交互に前に出すのが面白いのだ。
その時、珠子にとってショックなことが起きた。孝は手足が長く走るのが得意なので、珠子と元太が追いかけても全然捕まえられなかった。それは当然なので諦めがついたが、問題は走り回る元太に珠子が追いつけなかったのだ。しかも珠子が走って逃げると、あっという間にに元太に追いつかれた。
6歳児がまだ1歳になっていない乳児に走り負けたのだ。
「ねえミサオ、元太の走りって凄いよね」
珠子が立ち上がり、浴槽の縁に座って操を見た。
操は珠子が今まで湯に浸かってたところまで足を伸ばして
「あの子の脚力は才能よね。姫が人の思いや体調を感じ取れるのと同じぐらい素晴らしい能力だわ。だけど…」
誰に似たのかしらと首を傾げる。
「パパは運動神経が良いの?」
珠子が聞くと
「普通じゃない」
と、操が答える。
「そう言えば、茜と藍は小さい頃から結構身体能力が高かったわね」
「ああ、すらっとしてるし走るの早そうだね。ママはどうだった?」
「うん。確かに、コウちゃんは運動会で徒競走はいつも一等だった。そうだわ、あの子も立ち上がったり歩き出すのが早かった。元太はコウちゃんに似たのかも」
操は遠い目をしながら思い出していた。
「私もママの子どもなのに、似なかったんだね」
「その代わり、私とおんなじでしょう。だから誰より姫が大好きよ」
「うん。そうだね。私もミサオが大好きだよ」
珠子は浴槽の縁から立って操と向き合った。すると操はまじまじと珠子のお腹を見た。
「どうしたの?なんか変?」
操の目線の先を追って珠子は俯くと自分の腹部を見る。胃から下腹にかけてぽこっと出っ張ている。
「姫、シチュー食べすぎよ。お腹、苦しくない?」
今夜も珠子はクリームシチューを大盛りで二杯も食べたのだった。
「ちょっとだけ」
珠子は小さな両手でお腹を押さえた。
「あのね、今日ね、給食でクリームシチューを食べたの」
「えっ、お昼もシチューを食べたの?」
「そう。その時ね、ああミサオと作った昨日のシチューが食べたいなって思ったの。だってウチで食べたのの方がずうーっと美味しかったんだもん」
「そうなのね。また一緒に作ろうね」
「うん。作る。明日でもいいよ」
珠子は一週間続けてでも大丈夫だよと言った。
風呂からあがって体を拭いてパジャマを着ると二人とも頭にタオルを巻いてキッチンで冷たい麦茶を飲み一息ついた。
一緒に入浴すると、なぜか話が弾み長湯になってしまうのだ。二人は麦茶のグラスを持って、並んでソファーにドサッと腰を下ろした。
「今日も良い一日だったわね」
操が珠子を見ると、可愛い孫娘はコクンと大きく頷いた。




