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病は気から

夕方、操は珠子と一緒に夕食の準備をしていた。

今夜のメニューはクリームシチューとぶどうパンだ。

シチューには、鶏肉・じゃがいも・人参・玉ねぎ・ブロッコリー・エリンギ・椎茸・カニカマ・チーズと具だくさんだ。一つの料理で栄養がしっかり摂れるので病みあがりの操も比較的楽ができる。

刻んだ材料を珠子が言われた順番に操に渡していく。


「姫、玉ねぎを入れてください」


「はい」


小さな寸胴鍋に珠子が玉ねぎを入れる。操が炒めて


「姫、今度は鶏肉をくださーい」


と言われて、


「はーい」


珠子が渡す。


「次はじゃがいもと人参をちょうだい。重いから気をつけて」


「はーい」


珠子は乱切りのじゃがいもと人参が入ったボウルを両手で持って操に渡した。

操にとって今この時間はとても尊く、心がほわんと暖かくなってくる。

鍋に全ての材料が入り、後は暫くコンソメでコトコト煮込んで市販のルーを加えればできあがりだ。


「姫、テレビを見ていていいわよ」


「ミサオは、向こうに行かないの?」


「鍋を火にかけてるから、ここにいるわ」


「じゃあ私もここにいる」


珠子は操に抱きついた。


「甘えん坊さんね」


孫娘の頭を撫でながら操は目尻を下げた。


「だって私はミサオの傍にいたいの」


珠子が語尾を震わせながら言う。


「姫、嬉しいわ。ちゃんと傍にいるから泣かないで」


操はこの二日間、珠子に寂しい思いをさせたことを申し訳なく思っていた。熱が出た初日はしんどかったが月美に面倒を見てもらったおかげで、翌日にはすっかり体調も落ち着いたのだった。だが、その日も月美に甘えて上げ膳据え膳でのんびりさせてもらった。その間、操の体調不良は自分のせいだと珠子が自身を責め続けていたと聞いて、操はかなり反省させられた。

珠子をよいしょと抱き上げた操は食卓の椅子に座り、向かい合う形で抱っこした。

珠子が操の胸に体を預けて


「ミサオ、あったかい」


目を閉じてすぐに寝息を立てた。


「姫、余計な心配をさせてごめんね。もっともっと私に甘えてちょうだいね」


珠子の頭を撫でながら操は囁いた。

熟睡してる6歳の女の子の重みに太股が痺れてきたので、抱いたままゆっくり立ち上がり、頑張って寝室のベッドに連れて行き、そっと寝かせた。

急いでキッチンに戻るとシチューの具材がすっかり柔らかく煮えたので、最後にカニカマを加えて火を消しシチューミックスを入れてかき混ぜながら、もう一度とろ火で煮込み完成させた。


「さて、お茶を淹れるか」


電気ポットをセットした時、インターホンが鳴った。

応答すると、久我晶だった。

部屋にあがってもらい、お湯が丁度良い温度になったのでお茶を淹れ、ソファーに座った晶の前に湯呑みを置いて操は向かい側に座った。


「大家さん、今日はありがとうございました」


晶が頭を下げた。


「頭を上げてください。愛子さんは大丈夫ですか」


「はい。治療に前向きな気持ちになったみたいです」


「そうですか。良かったです」


「ただ、検査結果を見たドクターの話を都合よく解釈したのか、癌でなくて良かったって母は言ってたんですけど」


「確かに、診察室から戻ってらした時そう仰ってましたね」


「ドクターは腫瘍があるって言っていたんです。それって癌ってことだと思うんですけど」


「良性なのか悪性なのか私にはわからないけど、愛子さんが癌ではないと思って前向きになったのなら、晶さんはそのまま見守ってあげるのが良いんじゃないかなと私は思います」


「そうでしょうか」


「まずは前向きな気持ちのまま、早く治療を受けてもらうのが先決ではないですか」


操はもちろんドクターではない。が、愛子の生命力の強さを感じ取ったのだった。ただ、それを晶に話す訳にはいかないし、言ったところで信じてもらえないので、とにかく早く治療を始めて元気になって欲しいのだ。


「入院日は決まったんですか」


「週明け、今度の月曜日に入院する予定です」


「そうですか。晶さんも暫く大変でしょうけど、入院まで愛子さんが風邪などひかないように気にかけていてください。それまでの間、愛子さんの部屋で生活してもらっても構いませんよ」


「はい。お気遣い、ありがとうございます」


晶は立ち上がり玄関に戻ると、操が呼び止めた。靴を履いた晶が振り向いて操を見た。


「晶さん、愛子さんをこのまま前向きな気持ちで治療に臨めるようにしてください。病は気からです」


「はい。あの、何かあったらまた相談に乗っていただけますか」


「ええ。私で良ければ」


「ありがとうございます。それでは失礼します」


「おやすみなさい」


晶はお辞儀をして帰っていった。

晶に出したお茶を片づけながら、自分も珠子のために健康でいなくちゃと思う操だった。

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