孝と食べるから美味しい
『ぶるうすたあ』から『吉田精肉店』の前に着いた操たちは、店の看板女将と顔を会わせた。
「正子ちゃん、ただいま。お肉とコロッケをもらいに来たわ」
「操さん、商店街で買い物ありがとう。コロッケはここで食べていく?丁度食べやすい温度よ」
看板女将こと吉田正子が言ってくれたので、
「ここでいただきます!」
珠子が嬉しそうに答えた。
揚げ物用サイズのL字に口が開いた紙袋にバターコーンコロッケを入れて正子が三人に手渡した。
「ちょっと隅に寄ろうか」
操が気を使って端の方に移動しようとすると
「いいの、いいの。どーんと店の真ん前でサクラになってちょうだいよ」
正子がおいでおいでと手を揺らす。
三人はそこそこ熱いコロッケをハフハフしながら味わった。
「おーいしい!」
珠子が満面の笑みで声を上げた。
「姫はこれ好きだものね」
「うん。だーいすき」
その声を聞いた買い物客が揚げ物のケースの前で足を止める。
「あそこの可愛い女の子が食べてるのと同じの五枚ちょうだい。あとチャーシューを二百ね」
注文を聞いた正子は、珠子にウィンクしながら
「バターコーンコロッケを五枚とチャーシュー二百グラムですね。ありがとうございます」
客に商品を渡し代金をもらう。
そしてまた彼女にウインクをすると
「珠子ちゃんには、ここに毎日通ってもらおうかしら」
と言いながら、食べ終わった三人から不要になった小さな紙袋を受け取った。
「正子ちゃんまたね」
「操さん、今日はいろいろありがとう」
挨拶を交わして操たちはアパートへ戻っていった。
帰り道、孝は相変わらず歩道の車道寄りに立ち珠子と手を繋いで歩いている。
行きと違うのは繋いでいない方の手に五個組のティッシュペーパーをぶら下げ、肩にエコバッグをかけている。操は、江口カナがくれたクッキーの紙袋とトイレットペーパーを持って二人の後を歩いた。
無事にアパートに戻り、操の部屋に入ってエコバッグを肩から下ろした孝に
「荷物、重かったでしょう。本当に助かったわ。ティッシュも持ってもらって、姫とも手を繋いで草臥れたよね。今、冷たい麦茶を持っていくからソファーで楽にしてて」
操が買ってきた物を片しながら言った。
孝と珠子は手を洗ってソファーに並んで座った。
「タカシ疲れた?プリンちゃんをずっと抱っこしていたし、荷物もいっぱい持って歩いたから、肩を揉んであげるよ」
と言って、珠子は立ち上がる。
「大丈夫だよ。座って一緒に麦茶飲もう」
孝は肩もみをしようとした彼女を隣に座らせた。
「今日は充実した一日だったな。タマコは習字が上手く書けたし、おれたちはプリンにも会えた」
「そうだね。プリンアラモードを食べたし、バターコーンコロッケも食べられた!」
珠子はお腹を擦りながら言う。
「おまえは、食べ物のことばっかりだな」
「だって、タカシやミサオが一緒だと、とっても美味しく感じるんだもん」
「おれや、おばあちゃんが一緒だから美味しいって思うのか?」
「そうだよ。もし一人ぼっちで食べたら、プリンアラモードだってコロッケだって、こんなにも美味しいとは思わないよ」
珠子は真面目に自分の気持ちを話す。
そして彼女は孝を誘った。
「ねえタカシ、またお出かけしよう。今度は焼きそばが食べたい!」