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おれと遊園地に行こう

「あら、もう冬休みの約束をしたの」


幼稚園からの帰り道、珠子と手を繋いで歩きながら操は可愛い孫娘の顔を見る。


「そう。葵ちゃんと賢助君と一緒に、『フラワ・ランド』でお腹がひゅーってなるやつに乗るの」


珠子がお腹の辺りを撫でながら言う。


「葵ちゃん、タカシ君も誘おうよって言わなかった?」


「言った。でもタカシはああいうの好きじゃないから行かないよ」


「だけど、男の子二人と一緒に遊びに行くのは、タカシ君、ヤキモチを焼くだろうな」


操がいろいろ想像してニヤける。


「違うよ、ミサオ。女の子二人と男の子一人だよ」


と、珠子が訂正する。珠子にとって葵は女友だちなのだ。


「確かに姫の言っていることはわかるけど、タカシ君からすると葵ちゃんはやっぱり男の子なんだと思うわよ」


前に操のところで、珠子と葵がぺったりくっ付いて楽しそうに絵本を見ていたのを目にした孝が悔しそうな顔をしていたのを知っている操は、彼の気持ちを口にした。

とにかく、珠子は孝につき合わせるのは無理だろうと思いながら言った。


「どっちにしても、タカシは一緒に行かないと思うよ。行ってもつまらないでしょ。私みたいな小さい子が三人いて、その面倒を見るのも大変だし、お腹がひゅーってなるやつに付き合いで乗るのも楽しくないと思う」


「そうね。その前に姫、あなたと話してると、そこそこ大きい子と喋ってるみたいな気になって変に思わなかったけど、そもそも幼稚園児だけで遊園地に行かせられないわ。保護者がついて行かないとだめよ」


「えーっ、葵ちゃんと賢助君と三人だけじゃダメ?」


「絶対だめ。姫だってあそこで怖い目にあったでしょう」


「確かに、そうだよね」


「葵ちゃんや賢助君も親御さんから私と同じことを言われているわよ」


おそらく、幼稚園児三人での絶叫系マシン三昧は幻に終わるのだろう。




冬休みに葵たちと絶叫系マシン三昧ができないことに落ち込みながら珠子がソファーに座って水出し緑茶を飲んでいると、


「タマコ、いるか」


孝が母親手作りのココナッツのメレンゲクッキーを持ってやって来た。


「…タカシいらっしゃい」


元気なく言う珠子を見て


「おばあちゃん、あいつどうしたの?」


孝がクッキーを渡しながら操に聞いた。


「これ、月美さんが作ったの?サクサクで美味しいのよね。ありがたくいただくわ」


と言いながら、操は孝をキッチンに呼んで、珠子が落ち込んでいる理由を話した。

孝は珠子の隣に腰を下ろして


「賢助君と葵君と三人で遊園地に行くつもりだったのか?」


問いかけた。


珠子はチラッと孝を見て、俯いた。


「おれとじゃローラーコースターに乗れないと思ったのか?」


孝が静かに聞いた。


「そう言う訳じゃないよ」


今度はしっかり孝を見た。そして珠子は、幼稚園での会話をかいつまんで孝に話した。


「葵君がコースターをたくさん楽しんだ話を聞いてタマコと賢助君が、羨ましくなって三人で乗りに行こうってことになったんだね」


「そう。冬休みに三人で行こうって話をしたの。でもミサオに幼稚園児だけで行くのはダメって言われちゃった。確かにミサオの言うとおりだよね」


「そうだな。おれと一緒に行った時も、おれはおまえを守れなかった。おまえたちだけじゃ、何かあった時どうしようもなくなる」


孝は思った。この間、遊園地ではなく植物園の方に行ったのは自分に気を使ったんだと。本当はコースターに乗ってはしゃぎたかったのだ。


「タマコ、遊園地に行こうか」


「えっ、何で?」


「せっかくパスがあるんだし、お腹がひゅーってなるやつに乗りたいんだろう」


「そうじゃないよ」


と言う珠子の声は小さい。


「それじゃ、賢助君や葵君、男の子たちと遊びに行きたかったのか?」


「そう言う訳じゃない」


「タマコ」


孝が珠子の瞳を見つめる。

大体の人は彼女としっかり目を合わせることができない。そのつぶらな瞳に吸い込まれそうになり恐怖を感じるからだ。しかし、孝はそうならない。相思相愛だからか、理由は定かではないのだが。

今は、彼の強い視線に珠子の方が目を背けた。


「タマコ」


孝の声は優しい。


「あのね、葵ちゃんと賢助君と三人だけで、お兄さんたちやお姉さんたちみたいに同じクラスの仲間だけで、たくさんの乗り物に乗りたかったの。葵ちゃんはタカシも一緒にって言ったんだけど」


「葵君が?」


「葵ちゃんはタカシのことが好きなんだよ。だから私、タカシはああいう乗り物に好きじゃないから一緒に行かないよ、三人だけで行こうって言ったの」


「葵君は男の子だろう。おまえのことが好きで、いつもべったりくっ付いているんじゃないのか?」


孝は、珠子と葵が仲良さそうに絵本を見ていたのを思い出していた。


「葵ちゃんは、私にとって女の子の友だちなの。葵ちゃんもそう思ってる。だって()()、女の子になりたかったって言ってた」


「葵君は、その…、体は男の子だけど気持ちは女の子ってことか?」


孝はそう言う人がいるのは聞いたことがあるが、身近にいるとは思っていなかった。


「そう。でもそれをわかっているのは葵ちゃんの家族と中山ヒロミ先生と賢助君と私、あとミサオだけ」


珠子は、目線を孝に向けた。


「だから、タカシを可愛い葵ちゃんに取られないように、私、必死なんだよ」


そう言われて


「バーカ」


孝は嬉しそうに言った。


「タマコ」


「なあに」


「やっぱり、おれと遊園地に行こう」


「何で?」


「おれも絶叫系のコースターに慣れて、おまえと一緒にお腹がひゅーってなるのを楽しみたい」


「うん。ありがとう。嬉しい」


二人の話が落ち着いたところで、操が紅茶と月美の作ったメレンゲクッキーを持ってきた。


「そこのラブラブなお二人さん、美味しいクッキーをいただきましょう」


「あっ、月美さんのクッキー!いただきます」


珠子は絞り出した形の小さなクッキーを二つ口に入れて、両頬で頬張り


「美味ーい!」


いつもの珠子スマイルを見せた。

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