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冬休みに三人で

朝、運動会も終わりリレーの朝練をしなくてよくなった孝を見送るために、珠子は玄関先で彼を待っていた。


「タカシ、おはよう」


孝が出て来た。


「おう。この時間に会えるの、久しぶりだな。おはよう」


珠子に向き合うと孝は彼女の髪の寝ぐせを撫で押さえる。


「はねてる?」


珠子は孝の手の上から自分の手を乗せた。


「おれの手を押しても、おまえの寝ぐせは直らないよ」


孝は笑いながら自分の手を外す。


「おばあちゃんに、そこを濡らして直してもらいな」


「うん、分かった。でも、タカシにちゃんとした姿を見せたかった」


少しテンションが下がった珠子に


「寝ぐせのタマコも可愛いよ」


孝がフォローして慰める。


「タカシは優しいね」


「そうかな。じゃあ行ってくる。おまえも支度をしないとな」


「うん。いってらっしゃい」


「いってきます」


お互い手を振って別れた。


「ミサオ、お願いがあります」


部屋に戻った珠子は、操の傍に行って寝ぐせを直したいと言った。


「タカシ君に言われたの?」


「そう」


私が言った時は無視だったのにカレシの言うことはちゃんと聞くのねと思いながら、操は寝ぐせ直しのヘアスプレーをかけて珠子の髪をブラシでとかした。洗面所の鏡で確認した珠子は


「ありがとう」


満足気に頷いた。

それから、ごはんを食べて歯を磨いて夏の制服を羽織ると


「ミサオ、出かけられるよ」


珠子は黄色い帽子をかぶりながら声をかけた。


「姫、制服は臙脂色のじゃなくていいの?」


操は衣替えシーズンなので聞いた。


「だってまだ暑いんだもん」


「そうね。十月だからって冬用じゃなくていいわね」


「うん。ちょっと動くと汗かくもん」


「確かに。私もまだ半袖で丁度いい。秋は無くなっちゃったのかもね」


二人は真夏の格好で幼稚園に向かった。




ばら組の教室では、中山ヒロミ先生がみんなを集めて、先日の運動会の話をした。


「皆さん、運動会どうでしたか?先生は皆さんの走る姿やダンスの華麗さに感動しました」


「カレーって何だ?食べてないよね」


大沢賢助が珠子と永井葵に聞いた。


「そうじゃないよ、賢助君。華麗って言うのは、華やかって言うか、美しいって言うか、とにかく素敵だったってこと」


珠子が答えると


「珠子ちゃん、ダンス上手だったよね。蕾が開くようなポーズのところなんて、本当にお花が咲いたみたいだったよ」


葵が褒めてくれた。


「ありがとう。私、葵ちゃんや賢助君みたいに格好良く走れなかったから、ダンスだけでも頑張ったんだ」


珠子は恥ずかしそうな顔をした。


「確かに葵ちゃんって走るの凄く早かったね。一緒に走って競争したかった」


と賢助が言う。


「二人とも早かったよ。なんか風を切って浮いてるような飛んでるような、とにかく格好良かった」


珠子は二人が走る姿を思い出していた。特に賢助とは一緒に走ったので、実力の差を見せつけられて、彼の走りは凄い才能だなぁと思った。


「珠子ちゃん」


葵が珠子を見る。


「ん?」


「孝君とデート、楽しかった?」


葵に聞かれて、珠子はおもいきり頷いた。


「珠子ちゃん、孝兄ちゃんとデートしたの?」


「うん。『フラワ・ランド』で。葵ちゃんも、パパとママと来てたもんね」


「珠子ちゃんと孝君、お揃いのお洋服着てたんだよ」


葵は羨ましがった。


「ジェットコースターとか乗ったの?」


賢助は、どのマシンに乗ったのかが気になったようだ。


「私たちは植物園に行ってたから乗り物には乗ってないよ」


「えーっ、せっかくあそこに行って、植物園に入ったの?」


「芝生の上に並んで寝て、お空を見たらお魚みたいな雲があったの。そしたらタカシがその雲を見て、地上はまだ夏みたいに暑いのに空は秋になってるんだなって」


「なんかロマンチック!いいなぁ。私も孝君と一緒に植物園に行きたかった」


葵は遠い目をして、自分も孝と空を見ているところを想像した。が、すぐに賢助の声で現実に戻された。


「葵ちゃんはジェットコースターに乗ったの?」


「乗ったよ。でも日曜日でやっぱり混んでたから、とっても並んでて乗れるまで時間がかかったの。頑張って並んでいろんなのに乗ったよ」


葵の話に、珠子はちょっと羨ましくなり


「葵ちゃん、ぐるっと回るのにも乗ったの?」


思わず聞いた。絶叫系の乗り物が苦手な孝と一緒に乗れないマシンなので、とても気になったのだ。


「乗った乗った。あと、足をぶらぶらして乗るやつもね。踏ん張れないから結構怖かった」


「いいなぁー」


珠子と賢助が声を揃えた。


「ねえ、まだ先のことになっちゃうけど、冬休みに三人で行かない?」


羨ましがる二人に葵が提案した。


「おっ『フラワ・ランド』にか?行きたい行きたい」


「私も、お腹がひゅーってなる乗り物に乗りたい!」


「そうだ。珠子ちゃん、孝君も誘おうよ」


やっぱり三人より四人の方がいいよねと葵は思った。孝君と並んで乗れるかも知れないと妄想する。


「タカシは、お腹がひゅーってなるのには乗らないよ。好きじゃないみたい。だから三人で行こう!今から楽しみだな」


珠子は早く冬休みにならないかなぁと思い、葵の妄想はペちゃんと潰れた。

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