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お揃いのTシャツと食べこぼし

珠子と孝の誕生日会は和やかに続き、フルーツ盛り合わせのようなホールケーキが登場すると、


「うわー美味しそう!」


珠子が目を輝かせた。


「タマコ、おまえお腹がポコッと出てるよ」


孝が隣でテーブルに身を載りだしている珠子のお腹を触った。彼の言う通り、月美の料理を美味しい美味しいと、たくさん食べていた珠子は、胃から下っ腹にかけてかなり膨らんでいた。


「大丈夫。ケーキは別腹だもん」


そう言って珠子は『ぶるうすたあ』のケーキの甘い香りを吸い込んだ。

『ぶるうすたあ』は商店街にあるカフェで、店主の江口カナが作るフルーツサンドが評判の店だ。そこの看板犬ベドリントンテリアのプリンちゃんは珠子と孝のことが大好きで、店に行くと尻尾を振りながら走り寄り抱っこをおねだりする。


「カナさんがサービスでフルーツを盛り盛りにしてくれたのよ」


操が数字を(かたど)ったロウソクを刺しながら、珠子のお腹の辺りをチラッと見た。


「姫、大丈夫?」


「全然大丈夫だよ」


あんまりみんながお腹に注目するので、珠子は小さな手でポコッと出っ張った腹部をへこめへこめと言いながら擦った。

操がロウソクに火をつけて月美が灯りを落とすと、操・柏・月美がハッピーバースデーを歌い珠子と孝が火を吹き消した。

灯りを明るく戻して、ケーキをカットするとみんなで堪能した。


「姫、残していいわよ。冷蔵庫に入れておくから明日食べなさい」


デコレートされたフルーツを少し食べてフォークが動かなくなった珠子に操が言った。


「変だな。見てると美味しそうなのに、なぜかお腹に入らない」


首を傾げる珠子に孝が呆れた声で言いながら、ポンポンとお腹を軽く触る。


「こんなに腹が膨れて、食べ過ぎだよ」


だよね、と舌を出しながら珠子は反省した。

そうこうしていると、操と月美が二つの包みを持ってきた。


「私たち三人からプレゼントよ。無事に12歳と6歳になってくれてありがとう」


それぞれ手渡された包みのリボンを解いて中身を広げた。


「うわー!お揃い!」


前面のポップなイラストの下にそれぞれの名前がイタリック体のローマ字でプリントされた色違いのTシャツだった。


孝はブルーグリーン、珠子はピンクがかったオレンジ色だ。


「二人とも成長期だから少し大きめにしたの。どうかしら」


月美が着たところを見たいと言うので、二人は上に着ていた服を脱いでプレゼントされたTシャツを着た。


「おっ、良いじゃん。だぼっとしてるのも悪くない」


お洒落な柏に褒められて孝は嬉しくなった。珠子はペアルックと言うだけで上機嫌だ。


「ありがとう。早速明日学校に着ていくよ」


「私も幼稚園に着ていく!」


「姫は上に制服を着るから柄が隠れちゃうわよ」


操が言うと、珠子は首を横に振りながら笑顔で反論した。


「いいの。周りの人には見えなくても、お揃いを着ていることが私には大事なの」


「タマコはタカシのことが大好きなんだな」


柏が6歳の少女の一途な思いに感心する。孝の顔を見ると嬉しそうに珠子を見ている。これは…どうもごちそうさま、と柏は心の中で言った。




翌朝、珠子が玄関の外で待っていると、ブルーグリーンのTシャツを着た孝が出てきた。


「タカシ、おはよう」


「おはよう。タマコ、お揃いだ」


ピンキッシュオレンジのTシャツ姿の珠子と孝は並んだ。


「うん。ペアルックだよ!」


「タマコ、食べこぼしするなよ」


「えへへ。わかった。気をつける。いってらっしゃい」


「いってきます」


お互い手を振って孝は学校に、珠子は幼稚園に行く準備をするため部屋に戻った。


「姫、そろそろ制服着て」


朝ごはん代わりに、昨日食べ残したフルーツ盛り盛りのケーキを頬張ってる珠子は操に言われて、急いで残りを口に入れた。


「ごちそうさま」


食べ終わって椅子から立ち上がった珠子を見て、操が悲しそうな顔をした。


「姫……」


「何?ミサオどうしたの?」


「おろしたてのオソロTシャツが…姫、胸元見て」


操の言う通りに珠子は俯いてプリント部分を見ると、


「あっ」


高乳脂肪のクリームが転がり落ちて生地にくっ付いている。


「ミサオー、どうしよう。さっきタカシに食べこぼしに気をつけろって言われたのに」


珠子はべそをかき、それは号泣に変わった。


「とりあえず脱いで。洗うから、他のを着て歯を磨いてきなさい」


操は、脱いだTシャツの裏にタオルを当ててキッチンのシンクで、食器用洗剤を垂らすとトントンと叩きながらクリームの油分を下のタオルに移した。その後、ぬるま湯で洗い流して念のため酸素系漂白剤に漬けた。


「ミサオ、汚れ取れるかな」


支度を終えた珠子が元気なく聞いた。


「大丈夫よ。元気を出して。さ、行きましょう」


Tシャツの状態が気になる孫の手を引いて操は幼稚園に向かった。




部屋に戻った操は、洗濯機に肌着などと一緒に珠子のTシャツを漂白剤ごと入れて普通にスタートボタンを押した。朝食の食器を片づけたり掃除機をかけたりした後、お茶を啜っていると洗濯終了の音が聞こえたので、洗い上がったものを庭に干した。珠子のTシャツのクリームによる脂染みも綺麗に落ちたようだ。

操は、午後に珠子を迎えに行ったついでに彼女用のエプロンを見に寄り道することを決めた。

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