まだまだ残暑
残暑が厳しい中、珠子と操は手を繋いで幼稚園からの帰り道を歩いていた。
「ミサオ、お家に帰ったら、かき氷が食べたいな」
珠子がびっしょりと汗をかきながら、彼女と同じぐらい汗だくな操を見る。操も汗を拭きながら珠子に言った。
「そうね。私の体も氷を欲してるわ。この暑さでとろけそうね」
なんとか、とろけないで帰れた二人は、早速かき氷を作って渇いた喉に流し込むように食べた。
「ふうーっ、ちょっとだけ涼しくなったぁ。ミサオ、私のベロ、紫になってる?」
珠子はブルーベリーシロップで染まった舌を操に見せながら笑った。
「うわあ、姫、結構染まってるわ。魔女みたい」
「ミサオも魔女みたいだよ」
「でしょうね。ブルーベリーは体にいいから、私は良い魔女よ」
「じゃあ、私も」
「………」
「………」
二人はしばらく見つめ合って
「片そうか」
「うん」
空になったガラスの器をシンクに持っていった。
「姫、夕ごはんは何にしようか」
操が器を洗いながら聞いた。
「そうめんでいいよ」
珠子が答える。
「このところ、そうめんばっかりだわ。じゃあチャンプルーにでもしましょうか」
「チャンプルー?それってなあに?」
珠子は想像する。ぷるぷるのゼリーでそうめんを固めて作るのかなぁ。コーヒーゼリーを口に入れるとそうめんが出てくるみたいな感じ。コーヒーだと思ったら、めんつゆ味のゼリーとか…。それなら普通にそうめんをすすりたいなぁ、などと考えていると
「姫、チャンプルーは豆腐と野菜を炒めるってことらしいけど、そうめんを炒める料理がそうめんチャンプルーよ。焼きビーフンみたいに、そうめんを具材と一緒に炒めるの」
操が説明した。
「焼きそばみたいなの?」
「味付けは違うけど、そんな感じね」
「それなら食べたい!」
珠子は、初めて聞いた名前の料理が美味しそうな食べ物で安心した。
そして、夕食の時間になり
「いただきます」
操と珠子は食卓に向かい合って座り、そうめんチャンプルーを食べた。
「ミサオ、これ美味しい。毎日これでいいよ」
珠子に気に入ってもらえて、操は嬉しかった。具材をいろいろ入れたので、この一皿でそこそこ栄養がとれるし、洗いものも少なくて楽できるので、何を作るか困った時はこれにしようと夏バテ気味の操は思った。
その後、珠子とお風呂に入り、風呂上がりのアイスキャンディーを食べて、残暑の一日は過ぎていった。
エアコンを弱くつけて、操と珠子が並んでベッドに横になる。
「姫、もうすぐお誕生日でしょ。何か欲しい物はある?」
操が聞く。
「うーん。涼しい季節」
珠子の返事に苦笑いしながら
「それは私も欲しいわ」
操は可愛い孫娘を抱きしめた。
「ミサオ、暑い」
優しい祖母にハグされるのは嫌いじゃないけど、まだまだ蒸し暑いこの時期は遠慮して欲しいなと思いながら、珠子は目を閉じた。
今年の残暑は、まだまだ続きそうだ。