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茜と女子トーク

「ミサオ、ちょっと見て」


珠子がブルーの小花模様のワンピース姿を操に見せた。


「まあ、可愛い!月美さんに作ってもらったやつね」


柏の妻、孝の母の月美は手先が器用で、時々、可愛い柄の生地がセールになっていると購入して珠子用の服を作ってくれる。

今、珠子が着ているワンピースも月美のお手製だ。これから彼女は、叔母の茜とショッピングに出かける。

神波茜は神波藍と双子の姉妹で、二人は家事代行業を営んでいる。夏場も忙しく、やっと休暇が取れて、藍は旅行、茜は息抜きにショッピングに出かけることにした。一人で行こうと思っていたが、珠子がそれを聞きつけて一緒に行きたいと頼んだのだった。


「珠子ちゃん、出かけられる?」


茜が迎えに来た。スレンダーな体にダメージジーンズとグラスグリーンのTシャツというラフなスタイルで、珠子は格好いいなあと思いながら玄関で靴を履いた。


「茜ちゃん、おはよう。今日も格好いいね」


「おはよう。珠子ちゃんも可愛いわよ。それ、月美さんに作ってもらったんでしょ。着丈も袖丈も丁度良い」


お洒落な茜に褒められて、珠子は凄く嬉しかった。


「おはよう、茜。姫を頼むわね」


操が玄関に出てきて


「せっかくの休みに悪いけど、あの子がセンスの良いあなたと出かけたいって言うからヨロシクたのむね」


茜の耳元で珠子に聞こえないように言った。

茜は頷き珠子と手を繋いで駅に向かった。


「茜ちゃん、今日はどこでお買い物するの?」


「今日はね、電車で三つ目の駅に行くの」


「その駅は行ったことないな。隣の駅とか、もっと先の駅では降りたことがあるけど」


「今日降りる駅を出るとね、結構、洒落た建物がたくさん建っているのよ」


「わあ、楽しみ」


二人は『ハイツ一ツ谷』の最寄り駅から電車に乗った。




茜と珠子は電車を降りて改札を通り抜け駅前広場に出た。


「うわぁ、なんか凄すぎて目が回りそう」


珠子は顔を上に向けて、大きな交差点とそこから広がる道沿いの個性的で大きな建物を見回した。


「いつもの駅前とは違うでしょう」


茜が言った。


「うん。茜ちゃんは、いつもここでお買い物をしてるの?」


「まさか。たまに気分転換したくて、こういった所で元気をチャージしてるの」


「元気をチャージ?」


「そう。いつもと違う所で、普段見ないものを目にしたり触れたり味わったりすると、よし、明日からまた頑張ろう!って気持ちになるの」


そう言って、茜は細い腕に力こぶを作って珠子に見せた。


「茜ちゃん、格好いい!」


珠子が目を見開く。


「さて、どこに行こうかな。珠子ちゃんの興味があることって何かな」


「うーん。今ね、私の興味があるのは、どうすれば早く大人になれるのかなってことかな」


珠子は真面目に言った。


「大人になりたいの?」


「うん。タカシがね最近大人っぽくなって、私も近づきたいの」


「タカシって、月美さんのところの孝君?」


「そう」


茜と珠子は、近未来的な外観のビルに入ると、中庭に面したカフェのテラスでお茶をすることにした。茜はハーブティー、珠子はピンクレモネードにアイスクリームが乗ったのを飲みながら、話の続きをした。


「珠子ちゃん、孝君はいくつなの?」


「11歳。タカシねミサオより背が高くなったんだよ」


「えっ、お母さんより大きいの。最近の小学生って、成長が早いのね。で、どんなところが大人っぽいの?」


「うーん。言葉で言うの難しい。なんか雰囲気がね大人だなって思うの」


「雰囲気ね」


「あのね、例えば私とタカシが同じ方向を見たとするでしょう。そしたら、タカシは私の見ているところより、もっと先を見ている感じ。だから向きは一緒でも、見えてるものは違うの」


「珠子ちゃんは、とても哲学的なのね。そんな風に考える珠子ちゃんを私はとても大人だと思うけど」


茜は正直な感想を言った。

珠子は照れながら


「ありがとう」


と、嬉しそうに笑った。


「それにしても、5歳の珠子ちゃんから本気の恋バナが聞けるとは思わなかった」


「恋バナ?」


「好きな人の話」


「茜ちゃんは美人でスタイルが良くて優しくて格好いいからモテるでしょう。だから、こういう話は茜ちゃんにアドバイスをもらいたいなって思ったの」


珠子は真面目な顔で教えてくださいと言った。

すると、茜は情けない顔を珠子に向けた。


「私じゃあ、珠子ちゃんの期待には応えられないわ。アドバイスのしようがないの。だって私、恋ってしたこと殆どないもの」


「茜ちゃん、カレシいないの?」


「いない。欲しいとも思わない」


「そんなに美人で格好いいのに?」


「私ね、多分自分自身が一番好きなんだと思う」


「そうなの?」


「だから自分のために、こうやって行きたいところに出かけて、やりたい事をしてリフレッシュするの」


茜は自分で自分の頭をいい子いい子した。


「私は私よりタカシのために何かしてあげたいの」


珠子は呟くように言った。


「乙女だねぇ。珠子ちゃんは。で、今日はこれからどうしようか」


「ううん、わからない」


二人はカフェを出て、洗練された店構えのヘアサロンの前に立った。


「私ね、ここに来た理由の一つは、この美容室でカットしてもらおうと思ってたの。珠子ちゃんも髪の毛の手入れをしてもらおうか」


「茜ちゃんは、こんなお洒落な美容院に通ってるの?」


「うん。私の唯一の贅沢。藍もここで髪をケアしてるのよ。珠子ちゃんは綺麗な髪をしてるけど、ここでもっと女っぷりを上げて孝君をメロメロにしちゃいましょ」


茜は珠子の肩を抱いてサロンのドアを開けた。

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