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ハイツ一ツ谷のホッとな日常  作者: モリサキ日トミ


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お裾分け

「茜、藍、いるか」


湖から帰った夜、柏が土産物の入った袋をぶら下げて202号室のインターホンを鳴らした。


「柏君お帰り」


藍が玄関の扉を開けた。


「ノッシーの面倒ありがとうな」


柏は旅館の紋と名前がプリントされた袋を渡した。


「ありがとう。ちょっとあがってかない」


「ああ、おじゃまする」


柏はキッチンのテーブルに手をついて椅子に腰かけた。


「長時間運転してると腰に来る」


「片道どのくらいかかったの?」


藍が麦茶を注いだグラスを置く。


「大体二時間半ってところかな」


「それはお疲れさま」


「柏君、お帰り」


茜が顔を出した。


「ただいま。ノッシーの世話ありがとうな」


柏は茜にもお礼を言った。


「湖畔の高級旅館はどうだった?」


「凄いよ。世の中にはあんな格式のある宿にしれーっと泊まれるお金持ちの上得意がいるんだな」


「それって柊君のところの話?」


「ここだけの話な」


柊君は逆玉の輿だもんねと、茜は笑った。


「茜、柏君からお土産」


藍が、土産の入った袋を茜に渡した。


「俺からは日本酒で、つまみは月美からだ」


「うわー。すぐ一杯飲めるわね。藍、早速いただこうか」


袋の中身を出しながら、


「純米大吟醸の原酒だ!こっちは、清流スモークサーモンジャーキーだって。美味しそう。柏君も一緒に飲む?」


茜が日本酒の瓶を持ち上げて柏に聞いた。


「いや、今日は疲れたから早く寝るわ」


柏は椅子からゆっくり立ち上がると、


「おやすみ」


と言って妹たちの部屋をあとにした。


ロックグラスに氷を入れて飲む準備をしながら


「柏君、部屋に戻ったらさ、きっと月美さんに甘えて腰もんでーってお願いするんだろうね」


藍がニヤリと笑う。


「だねぇ」


茜も笑った。




操の部屋では、


「ミサオ、一緒にお風呂入ろう」


お湯張りのスイッチを押して珠子が誘った。


「そうね、一緒に入ろうか」


お湯が沸くと、二人はザーっとシャワーで体を洗い流して一緒に浴槽に体を沈めた。


「お花が浮いてないと、なんか寂しいね」


珠子は小さな手のひらで湯の表面をペチペチと叩いた。


「あの花びらが浮いたお風呂はね、凄くお金がかかるのよ」


操がため息混じりに言う。


「そうなの?」


「お風呂以外にエステティシャンって言う人が顔や体をマッサージしてくれるんだけどね、それがいいお値段なのよ」


「でも、ミサオのお顔ピカピカして綺麗なお肌だったよ」


珠子が操の頬を手で触った。


「そーお」


孫に褒められて操は目尻を下げた。


「私、日に焼けたよね」


ビキニの跡がはっきりわかるくらい珠子は焼けていた。


「ヒリヒリしてない?」


「少し痛いかも」


「お風呂からあがったら、ボディローションを塗ろうね」


入浴後、肌のケアをしてパジャマを着ると


「姫、夜ごはんは簡単にお茶漬けでいい?」


「いいよ」


旅館の土産物コーナーで買った漬物と瓶詰めのサーモンフレークで、さらさらとお茶漬けを食べた。


「姫、明日は美子さんと会うんだけど一緒に行く?」


「えっ、うなぎ食べに行くの?」


珠子は嬉しそうに聞いた。


「お店には行かないわよ。ヒイラギのところに行くの」


「なんだ、残念。でも一緒に行く。千春ちゃんに会えるんだね」


「そうね。あの子も結構大きくなったでしょうね」




翌日、操はお土産の袋を持って珠子と一緒に柊の家を訪ねた。

柊の妻、美雪が千春を抱いて出迎えてくれた。


「お義母さん、いらっしゃい。珠子ちゃんもよく来てくれたわね。結構、日に焼けたね」


「ミユキちゃんこんにちは。千春ちゃんもこんにちは」


珠子が挨拶をすると、千春が大きな目で珠子を見て


「ああー、あー」


元気な声をあげた。


「千春ったら珠子ちゃんに会えて嬉しいのね」


美雪が千春の上げた手を持って少し振ると、珠子も手を振った。

エレベーターで二階に上がると、千春の母、美子が


「操さん、あら、珠子ちゃんもいらっしゃい。さ、奥へどうぞ」


みんなをリビングへ連れていった。


「珠子ちゃん、いい具合に肌が焼けて。向こうで楽しめた?」


美子は美雪から千春を受け取ってソファーに腰かけると、向かい側で操と並んで座った珠子に聞いた。


「はい。張り切りすぎて、ちょっとだけ溺れました」


珠子は正直に言うと


「でも、とっても楽しかったです」


笑顔を見せた。


「まあ、大変だったじゃない!」


美子が驚いた。


旅館(あちら)の女将さんにいろいろお世話になりました。それから、私、生まれて初めてエステを体験したのよ」


操が恥ずかしそうな顔をした。


「道理で、肌が艶々よ操さん」


美子に言われて、焼け石に水よと操は苦笑いした。

そして、お土産の袋を美子に渡し、


「美子さんたちは、いつもあちらに行ってるので、珍しいものではないけど、召し上がってください」


これとこれは美子さん用よと二つの包みを指さした。


「あら、これはもしかして」


美子が、隣に座った美雪に千春を抱かせて、袋の中から包みを取り出すと包装を開いた。


「あっ、やっぱり。なんか恥ずかしいけど嬉しいわ。操さんありがとう」


美子は顔をほころばせて言う。


彼女の手には芋焼酎と栗羊羹が握られていた。


「女将から聞いたんでしょ。私ね彼女に見られちゃったのよ。この羊羹をこのまま囓りながら焼酎をロックでぐいっと飲んでるところをね」


「ええ、それを聞いてちょっと驚いたわ。だけど、どのタイミングで女将さんに見られたの?」


「ああ、彼女ね私の従妹なの。私、ちょっと疲れてた時期があってね一人であそこに泊まったことがあったの。一人で来たことを心配したみたいで、部屋に飛び込むみたいに様子を見に来たのよ。その時に、羊羹と焼酎を交互に口に運ぶ姿を見られちゃった」


いたずらが見つかった子どもみたいに美子は舌を出した。

お母さんって変わり者でしょと言いながら、美雪は袋に手を入れ筒状の物が包まれた土産を取り出した。


「これは何かしら」


「それは、ミユキちゃんへ姫から」


操が言った。


「あら、万華鏡」


「ミユキちゃん、それ覗いて」


珠子に言われて、千春を美子に渡すと万華鏡を外の光にかざしながら回し見た。


「まあ、綺麗」


「湖が見えるでしょう!」


珠子が興奮気味に言う。


「私とお揃いだよ」


「お揃いなんて、嬉しいわ。珠子ちゃん、ありがとう。大事にするね」


「うん。ミユキちゃんと千春ちゃんに、湖のお裾分けです」


日に焼けた顔で、珠子が笑った。

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