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ハイツ一ツ谷のホッとな日常  作者: モリサキ日トミ


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湖と大浴場とスパ

お昼になり、孝たち男性陣は湖から旅館に戻ると、真っ直ぐ大浴場に向かった。


「結構体が冷えてるから、よく温まれ」


柏が孝に言う。


「うん。おれたちは直接お風呂に来たけど、タマコはどうしたの。あいつの肩、冷たかったよ」


「タカシは、タマコと一緒に湖からあがってすぐ、体が冷えてるからってパーカーを羽織らせてやってたもんな。さすが俺の息子だ」


おまえは本当にいい男だ、と柏は思った。


「珠子は母さんたちが施術を受けてるスパに行ったよ。きっと花びらなんかが浮かんでる浴槽に、お姫様気分で浸かってるんじゃないかな」


源が元太の体を洗いながら言った。


「あっ、こいつやばそう。もう間もなくモリモリ出すぞ」


急いで元太の泡をシャワーで流し、源は一度も温泉に浸からず脱衣所に行った。


「タマコのお父さん、どうしたの?」


大きな浴槽に体を沈めて孝が聞いた。柏も湯に浸かって、うーっと体を伸ばしながら言った。


「元太がもうすぐウンチをしそうなんだろう」


「そうか。でもタマコのお父さんはお湯に一度も浸かってない。全然温まってないよ」


「仕方ないよ。ここでウンチをさせる訳にはいかない。兄さんは部屋のバスタブにお湯を張って温まるんじゃないか。温泉じゃないけど」


「赤ちゃんの面倒を見るって大変なんだね」


「そうだな。俺はあんな大変な思いをしないで、こんなに心優しい息子の父親になれたんだな」


柏は後ろから孝をハグをした。


「お父さん、やめてくれよ。恥ずかしいよ」


孝が柏の腕からすっと抜ける。


「なんだよ、連れないヤツだな。タマコのハグだと嬉しそうにニヤけるくせに」


「だってタマコは……」


「タマコは何だよ」


「何でもない。あー、のぼせそうだから先にあがるね」


孝は、真っ赤な顔で脱衣所に向かった。

全く可愛いヤツだなと、残された柏は笑った。




「姫、泳げるようになったの?」


ピンク色の花びらを浮かべたいい匂いのする白いお湯のバスタブに寝そべるように浸かっている操が、一緒に体を沈めている珠子に聞いた。


「うん。バタ足で少し進めるよ」


「そう。タカシ君は教えるの上手なのね」


「水に浮かぶ練習をしたの。仰向けになって、タカシが背中と腰を支えてくれたの。お空が真っ青で雲が真っ白で気持ち良かった」


「それはいいわね。姫のビキニ姿を見てタカシ君は何か言ってた?」


「何も言ってない。私が湖に走って行ったら、急に水に入っちゃダメだって注意された」


「そうなの。でも彼の言うことは正しいわね」


「うん。昨日膝まで水に入った時はぬるかったのに、今日は冷たかったの。タカシと手を繋いで少しずつ湖に入ったよ。明日は平泳ぎを教えてくれるって」


二人がゆったり花びら入りのお湯の中で話をしていると、


「操様、あちらで仕上げのトリートメントを。お嬢様は係の者がご案内します」


スタッフが操を施術用ベッドに寝かせ、珠子は更衣室に連れて行かれた。


「お嬢様はお湯を見事に弾いて、まさにピチピチのお肌ですね」


操の体にオイルの様なものを塗りたくりながらエステティシャンが褒めちぎった。

姫のことを良く言ってくれるのは嬉しいが肌がピチピチなのは当たり前なのだ。5歳と62歳を比べないでと思う操だった。

操と鴻と月美がつるつるテカテカな顔をして珠子と食事処に行くと、ビールのジョッキを傾けてご機嫌な源と柏が胡座をかいてテーブルに着いていた。畳敷きの小上がり席で元太は座布団の上で大の字になって寝ていた。


「タカシは?」


珠子が周りを見回す。


「あいつは疲れたらしくて部屋で寝てる」


柏がジョッキを持ったまま、トロンとした目つきで言った。


「月美、顔が艶々じゃん。こっちに座って。これ飲むか」


月美を隣に座らせ、柏が自分の飲みかけのビールジョッキを渡そうとした。


「どれだけ飲んだの柏君。目の焦点が合ってない。私、ちょっと部屋に戻って孝を見てきます。みなさんは食事をしていてください」


月美が立ち上がりスリッパをつっかけていると


「月美さん、私も行く」


珠子もついて行った。




月美が部屋のドアを開け、中に入ると三つ並んだベッドの一つに孝が手足を放り出すようにして爆睡していた。


「可愛い。さっき見た、座布団で大の字になっていた元太と同じ格好だ」


珠子が思わず孝のほっぺたを突いた。


「きっと私に泳ぎを一生懸命教えてくれたから疲れちゃったんだね」


「孝は家を出る前から珠子ちゃんに泳ぎを教えるんだって張り切っていたから、それができて充実したのね。食事処の小上がり席にいるってメモを書いておきましょ」


月美は旅館のマークがプリントされたメモ帳にペンを走らせ、孝用のカードキーの傍に置いた。

珠子がクローゼットから使っていないバスタオルを出して孝のお腹にかけてあげた。


「珠子ちゃん、ありがとう。ごはん食べに行きましょう」


月美は彼女の小さな手を取り、部屋を後にした。

珠子はもう少し孝の寝顔を見ていたかったなぁと、振り向いて部屋のドアを見た。

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