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湖だ!

珠子と孝の目の前に広がっているのは青く澄んで凪いでいる湖だ。


「去年の夏に行った海と違って、白い波が見えないね」


珠子はサンダルを脱いで、裸足で湿った茶色っぽい砂を踏み締め水際へ歩いて行った。


「タマコ、サンダル置きっぱにすると後で探し回ることになるよ」


しょうがないなと言いながら、孝は彼女のサンダルを指に引っかけて一緒に水辺を歩いた。

膝まで水に浸かった珠子は、小さな手ですくった水を口に含んでみた。


「あっ、飲める!」


「タマコ、お腹を壊すから、もうやめとけ」


珠子が二回目にすくった手を、孝が握り水がこぼれ落ちた。


「大丈夫だよ。思ってたより美味しくないけど」


「やめとけ。見た目は綺麗でも病原菌とか、魚のフンが溶けて混ざってるかも知れないだろう。しょっぱくないのがわかったんだから、もういいじゃないか」


孝が真剣な顔をして言う。


「魚のフンか……わかった」


珠子は素直に言うことを聞いた。


「それにタマコ、可愛いワンピースが濡れちゃうよ。おばあちゃんのところへ戻ろう」


「そうだね」


珠子は孝と手を繋いで水際から乾いた砂の辺りまで戻った。


「あいつらは、本当に仲良しだな。ね、源兄さん」


珠子と孝の様子を見ながら、柏が源の肩を叩く。

源はため息を吐きながら


「子どもは成長すると、あっという間に親離れするんだな」


と、自分を納得させた。

その隣では、


「うっきゃー。あー。きゃー」


元太がベビーカーの中で、両手を上下させながら声をあげていた。


「こんなに開放的な場所、初めてよね、元太」


操がしゃがんで元太の顔を見る。

元太は、水辺のすぐ近くで走り回る珠子と孝の動きを目で追っていた。


「元太も、姫やタカシ君みたいに走りたいのね」


操が問いかけると


「あーあー、うきゃー」


元太が返事をした。


「この子、何かに掴まれば歩けるのかな?」


操が立ち上がって鴻に聞いた。


「ええ、足の力が凄く強くて、手を引いてあげれば、結構前に進めると思います」


「じゃあ、明日は一日中、源に元太を任せて私たちはエステで肌をつるつるピカピカにしてもらいましょう」


操の提案に鴻が二つ返事でエステ行きますと言い、その隣で孝たちを見守っていた月美も、お供しますと、嬉しそうに頷いた。

午後三時を過ぎて、一行は出たときと同じルートで旅館に戻ると操がチェックインをして、仲居さんに案内され、それぞれの客室へ入っていった。




源と鴻と元太が泊まるのは、ベビーベッドを用意された和洋室だった。


「元太、畳を見るの初めてだろう。ここなら、はいはいできるな」


源がベビーカーから元太を抱き上げて、小上がりの畳で胡座をかいた。

元太を畳に座らせると


「あー。きゃー」


早速はいはいをして畳の感触に夢中になった。そして壁際まで進むと、べちっと壁に手をついて立ち上がった。壁伝いに横歩きをすると、二歩ほどどこにも触らず源のもとへ歩いた。


「元太、おまえ一人で歩いたじゃん。凄いぞ!」


それを見ていた鴻も思わず笑顔になった。


「元太は源ちゃんにいいところを見せたいのよね」


「そうか。元太は俺にいいところを見せたいのか。パパは今朝から珠子に振られて落ち込んでたけど、おまえのおかげで元気になったぞ。この旅行では元太と男い同士の絆を深めような」


源が機嫌よく言うので、ここぞとばかりに鴻が言った。


「元太、良かったわね。明日は一日パパの面倒を見てあげてね。私はお義母さんたちとエステ三昧してくるから」


「何、それ。明日は俺一人で元太を見るの?鴻は一緒にいてくれないの?」


源が寂しそうに聞いた。


「お義母さんが予約してくれたの。全身ピカピカのつるつるになってくるわ」


「そうか…わかった。ゆっくりリラックスしておいで。元太、明日は男同士で遊ぼうな」


源が話しかけると


「うきゃー」


元太が興奮気味に返事をした。




操と珠子が泊まる部屋では、なぜか孝もくつろいでいた。


「タカシ君、カシワとお風呂に行くんじゃないの?あの子、宿に着いたらすぐ大浴場に行くって言ってたわよ」


操が聞いた。


「うん。お父さんもお母さんもまだ新婚気分だからさ、できるだけ二人っきりにさせてあげようと思ってさ」


孝が大人っぽい顔を見せる。


「なーんて言って、本当は私と一緒にいたいんだよね。タカシ」


珠子が孝のお腹を突くと、


「へへへ、その通り」


ばつが悪そうに孝は笑って窓の外を見た。

そこには穏やかな湖が果てしなく広がって見えた。


「タマコ、明日はあそこでいっぱい遊ぼうな」


孝が言った。


「うん。泳ぐの教えて」


「おお、任せろ」


泳いだことのない珠子は、水に浮くってどんな感じなんだろうとワクワクした。

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