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珠子と孝と葵

珠子と孝がプリンアラモードを味わい、ショッピングモールの中を手を繋いでデートを楽しんだ翌日のことである。

午前中に男女二人の警察官が操の部屋を訪れた。

昨日、変質者がショッピングモールに出没し、珠子の友だちの永井葵が被害に遭い、珠子たちがその通報と救出に尽力して、事件が解決した件の事情聴取に来たのだった。

なので、孝も珠子と並んで警察官の質問に答えていた。


「お二人はモールに着いて、どの辺りで犯人とお友だちを見たんですか」


「おれたちはモールの中ほどを歩いていて、タマコが気づいたんです」


孝が答えると、女性警察官が珠子に目を向けた。


「では、最初に珠子さんが永井葵さんを見つけたんですね」


「はい。葵ちゃんは知らないおじさんに手を掴まれて引っぱられていました。その時、葵ちゃんのママが葵ちゃんを待っていますって放送が聞こえたんです。でも、おじさんは気にしないで葵ちゃんを連れて行ったの。だからその人は自分が引っぱっている子が葵ちゃんだって知らないんだなって思いました」


「なるほど。それでお二人は葵さんを追いかけたんですね」


「はい。人が多くて見失ったんですけど、男はトイレの方に向かっていたように思えたので、おれたちもそっちに行きました」


と言って、孝は珠子と顔を見合わせ頷き合った。


「そうなんです。普通のトイレはたくさんの人が出たり入ったりするから、車いすのマークがついたトイレに連れて行かれたかもって思い、その前に行きました」


「バリアフリートイレに男が入ったのを見た訳ではないのね」


女性警察官が確認する。


「入ったところは見てません」


珠子は正直に答えた。


「でもお巡りさん、タマコはバリアフリートイレのドアを思いっきり叩いて言ったんです。葵ちゃん見つけた。かくれんぼは葵ちゃんの負けだから、アーって言って出てきてって。そうしたら…」


ここまで話して、孝は珠子を見た。そして、珠子が話を続けた。


「そうしたら葵ちゃんが、小さい声だったけどアーって言ったんです。確かに葵ちゃんの声でした。でも、すぐに聞こえなくなった」


「おれたちの話はこれで終わりです。この後は、お巡りさんが来てモールの人たちも来た」


「よくわかりました。お話いただき、ありがとうございました」


女性警察官は軽く頭を下げた。


「最後に一つだけ確認させてください」


男性警察官が口を開いた。

珠子と孝がその人を見る。


「そのトイレのドアなのですが、ロックされていたかどうか覚えていますか」


その質問に、珠子と孝は顔を見合わせた。そして孝が答えた。


「ドアに鍵がかかっていたかどうかはわかりません。ただ、鍵がかかっていると思っていました。おれたちがトイレの前に着いた時、多分、使用中のライトが点灯していたと思います」


「そうですか。ご協力ありがとうございました」


そう言って警察官は、操・珠子・孝に目を合わせ、お辞儀をして部屋を出ていった。


「あーっ、こっちは悪いことをしてなくても、事情聴取って緊張するわね」


と操が伸びをしながら言うと、


「今日はミサオ、何も聞かれていないし、何も喋ってないよ」


珠子が片眉をクイッと上げながら言った。操は舌を出しながらへへっと笑った。


「でもさ、男の人がトイレのドアロックのことを聞いた時、おれ目が泳いじゃったかも」


孝が珠子を見つめた。


「実は私が念力で開けました。なんて言ったら話がややこしくなるものね、姫」


操が言い、珠子がうん、と頷いた。




午後になると、永井葵の母レイラから、これから昨日のお礼に伺ってもいいですかと連絡があった。操は、お礼なんかいいから葵ちゃんの元気な姿を見せてくださいと伝えた。

そして、葵とレイラがやって来た。


「さっ、あがって奥へどうぞ」


操がソファーに座るように二人を促した。

キッチンでは、珠子と孝が何かを作っていたらしく、きゃっきゃ騒いでいた。


「はい。そこでイチャついてるお二人さん、準備ができたらこぼさないように向こうに運んでちょうだい」


操に言われて、イチャついてた二人はできあがったフルーツポンチを大きめなグラス五個にそれぞれ注ぎ、ソファーのテーブルに運んだ。柄の長いスプーンとストローをみんなの前に置いて珠子と孝は並んでソファーに座った。


「葵ちゃんいらっしゃい。気持ちは落ち着いた?」


珠子は体調もそうだが葵の心のダメージを心配した。


「うん。大丈夫」


葵はチラチラと孝を見ながら答えた。

そこへ人数分のおしぼりを持ってきた操が、みんなに手渡し


「手を拭いてフルーツポンチをどうぞ」


と言って珠子の隣に腰を下ろした。

みんながソファーに揃ったところで、レイラがケーキが入っていそうな箱を差し出し


「珠子ちゃん、孝さん、昨日は本当にありがとうございました。これ、皆さんで召し上がってください」


お礼を言った。


「気を使わなくていいんですよ。レイラさん」


箱を受け取りながら、操は後でみんなでいただきましょうと言いながらキッチンに持っていった。

操が珠子の隣に戻ったところで、レイラが改めてお礼の気持ちを伝えた。


「珠子ちゃんと孝さんがあの場所にいたのは、不幸中の幸いでした」


レイラが噛みしめるように言った。


「あの時、葵ちゃんはママとはぐれちゃったの?」


珠子が聞く。


「私が御手洗に行っている間、ベンチに座って待たせたんです。でも、戻ってきたら葵の姿が見えなくて……」


レイラが小さな声で答えた。


「それで、葵君の呼び出しアナウンスが流れたんだ」


孝が納得した顔をした。


「その放送が流れたから、葵ちゃんを連れて行こうとしたおじさんが怪しい人だって思ったんだよね、タカシ」


珠子は孝を見て、お互い頷いた。


「だけど、おっさんが男の子を連れて行って、いたずらしようとするって、おかしいよな」


孝が首をかしげる。


「今は、男も女もないの。最近は男の子の方が可愛らしくて、お肌もすべすべだったりするから狙われたって話を聞くわ。葵ちゃんは本当に可愛いから、これからも気をつけてね」


操がいつになく真面目に言った。


「はい」


葵とレイラが声を揃えて頷いた。


「あの時、珠子ちゃんがかくれんぼしてるみたいに言ってくれて、傍にいてくれたから、自分の気持ちをしっかりしなきゃって、私思ったの」


葵が真っ直ぐ珠子を見た。


「うん。葵ちゃんの助けになれて良かった」


珠子が嬉しそうに頷く。

隣で孝がじっと珠子を見つめる。


「ねえ珠子ちゃん、昨日は孝君と買い物に来ていたの?」


そう聞く葵に、珠子が首を横に振った。


「昨日はね、タカシとデートだったの」


「デート?」


「うん。ね、タカシ」


珠子が孝と腕を組む。孝が恥ずかしそうに頷く。


「珠子ちゃんと孝さんは仲がいいのね」


レイラが優しい目線を送る。


「孝君、今度私とデートしてください!」


突然、葵が誘いの言葉を言って孝が驚く。


「ええと、葵君、タマコも一緒に三人で出かけようよ」


「私と二人でデートはダメですか?」


葵の顔は真剣だ。

だって葵君は男の子だろう!と言おうとした孝を、珠子が制した。


「葵ちゃん、ごめん。タカシは私のカレシなの。だからデートは私とだけなの」


珠子も真面目に話す。

なんだか妙な三人のやり取りに


「おやおや、タカシ君はモテるわね」


操が茶々を入れる。


「おばあちゃん!」


孝が頬を膨らます。


「まっ、レイラさんがくださったのを、みんなでいただきましょう」


操はキッチンにお持たせのお菓子を取りに行きながら、子ども同士の関係も大人顔負けに、いろいろ絡み合うのかしら、などと思いながらクスッと笑った。

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