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土曜日の午後

珠子と孝と月美が七夕飾りを作っていた時、孝が珠子を見て言った。


「ねえ、おばあちゃんの誕生日ってもうすぐじゃない?去年、タマコと駅前の花屋に行ったよな」


「うん。七月三日がミサオのお誕生日」


珠子が答える。


「今年はどうする?おれもおばあちゃんの誕生日をお祝いしたい」


孝は短冊状に切った折り紙を輪っかにして鎖のように繋げながら珠子に聞いた。


「うーん。今年もお花がいいかなぁ」


「ねえ、ここでお祝いしない?私、お義母さんの好きなもの作るわよ」


月美が二人の話を聞いて提案した。


「それ、いいね」


孝が賛成する。


「月美さんのごちそう食べられるの、大賛成!」


珠子が嬉しそうに大きな声をあげる。


「バカ、大きな声を出すな。こういうのは内緒で準備するんだ」


「ごめん」


孝に言われて珠子はシュンとする。


「何を揉めているの?」


操が三人の作業の様子を見に来た。


「何でもないよ。ね、タカシ」


珠子が慌てて孝に話を振る。


「う、うん。こいつが食いしん坊だって話をしていたんだ」


と孝が顔を強張らせながら笑って珠子のおでこを突いた。


「なんか怪しい」


操が三人の顔をじっと見回す。

珠子も孝も月美もぎこちない笑顔を操に向けた。




翌日、珠子は柏の部屋を訪れた。


「おばあちゃんに、なんて言ってこっちに来たんだ?」


孝が手招きをしながら聞いた。珠子は孝の後についてキッチンへ行くと、


「珠子ちゃん、いらっしゃい。お義母さんのバースデーケーキの試作よ」


と言って、月美が食卓に可愛いデコレーションのホールケーキを置いた。


「わあー。凄ーい!美味しそう」


珠子が感激する。


「で、おばあちゃんに、なんて言ってこっちに来たんだ」


孝がもう一度同じことを聞く。


「うんとね、タカシの顔を見に行ってくるって言った」


珠子が答えると


「なんだ、それ」


と言いながら、孝は嬉しそうに笑った。


「相変わらず、おまえたちはラブラブだな」


柏が、菜っ葉を平らげたリクガメ・ノッシーの皿を持ってキッチンへ顔を出した。


「お父さんとお母さんには負けるよ」


と孝が柏のお尻をポンと叩く。

平和な土曜日の午後だ。


「で、母さんの好物って何だ?」


柏が珠子に聞く。


「結構こってりした物が好きだよ。から揚げとかチンジャオロースとかホイコーローとか」


「なんだか中華屋のメニューだな」


珠子の答えに柏が苦笑いをする。


「タマコ、おばあちゃんのプレゼントさ、今年も籠に生けた花にしようよ。カードにおれたちのメッセージを書いて一緒に渡そう」


孝が提案すると


「メッセージ書く!タカシ、カードを買ってこよう。お花は、お誕生日か前の日にお花屋さんに行くの」


珠子は賛成して、どんなことを書こうかなと考えた。


「葉書ぐらいの厚さの紙ならあるよ」


二人の話を聞いて柏が言った。


「ケント紙でいいか?色画用紙にする?」


孝と珠子を連れて、柏の寝室へ入った。奥に大きなベッドとコンパクトな鏡台、手前にデスクが置かれていて、その端に様々な紙を収めたアクリルの引き出しがあった。

柏がその中から何種類かの厚手の紙を出した。


「カシワ君の引き出しって文房具屋さんよりいろんな紙がある。カシワ君って紙屋さんだっけ?」


珠子が、薄くて段がたくさんある引き出しを見て驚いていた。それぞれの段に紙の種類のラベリングがされている。


「俺は建築屋だよ。設計した建物のミニチュアを作ったりする材料の一部だ。ええと、文字が書きやすいのはケント紙かな。この色画用紙と重ねてもいいな。葉書ぐらいのサイズでいいのか?」


「うん。おれたち二人でメッセージを書くから、葉書サイズがいいかな」


「わかった。じゃあ、このピンクの色画用紙に、それより小さくカットしたケント紙を重ねてカードを作ってやる。できたらキッチンに持って行くから、おまえたちは月美のケーキを食べてな」


「お父さん、ありがとう」


「カシワ君、ありがとう」


仲良し二人組は柏と月美の寝室を出ると、跳ねるようにキッチンへ向かった。


「月美さん、ケーキ美味しい!カステラがしっとりしてて挟まってる果物と口に入れると、まるで飲み物やぁ」


珠子が幸せそうな顔をする。


「うん。美味い!プリンちゃんの店のより美味いかも」


舌の肥えた子どもたちに褒められて月美はガッツポーズをした。大きく切り分けられたケーキをペロリと食べ終えて、満足気な珠子と孝のところに柏がやって来た。


「できたぞ。書き損じてもいいように四枚用意したよ。って言うか、紙を四分の一にカットしたから四つできちゃっただけなんだけどな」


「お父さんありがとう。タマコ、おれの部屋でメッセージを書こうぜ」


「うん。月美さんごちそうさまでした。ミサオのお誕生日、よろしくお願いします」


仲良し二人組がカードを手に孝の部屋に走る姿を見て、柏と月美が微笑み合った。

実に平和な土曜日の午後である。

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