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珠子の家族と孝の家族(2)

「今夜は何にしましょう」


カートにカゴを乗せて鴻が聞いた。


「うーん、やっぱり鍋がいいかしら。月美さん、悪いけどカート押してもらっていい?」


「はい」


スーパーマーケットの通路を操と鴻が珠子を挟むように並び、しっかり手を繋いで進んだ。その後を月美がカートを押している。


「私たち、三人並んで幅取って邪魔でしょ」


操が振り向いて月美に言う。


「はあ」


月美はどう返事しようか考えてしまった。


「この間、ホームセンターで姫が(さら)われそうになったの。それで、外に行くときはこうやって手を繋いでるの」


「そうなんですか。ああ、欲しいものを言っていただければ私がカゴに入れていきます」


「それじゃお願い」


操が指をさして伝えると月美が鮮度や状態を確認してカゴに入れた。

一通り店内を回って必要な食材でカゴが山盛りになった。レジに向かう途中で珠子が立ち止まった。


「タカシ君、シュークリームが好きだよ。カスタードのやつ」


「珠子ちゃん、そうなのよ。よくわかったわね」


「前にね、言ってたの」


「それじゃスイーツコーナーに寄りましょう」




レジを済ませ、大きなエコバッグ四つに詰めた荷物をカートに乗せて店を出ると駐車場に向かった。

突然、操が振り向いた。車の陰に隠れるように動く姿が目に留まった。やはり後をつけられてた。


「コウちゃん、車大丈夫かな。何か細工されたりしてないよね」


「防犯ブザーは付けてあるけど、ブレーキとアクセル確認します」


操と鴻のやりとりを見て、月美は驚きを隠せなかった。


「神波さん狙われているんですか」


「多分、姫がね」




無事アパートに戻った四人は操の部屋のダイニングテーブルに買ってきた食材を広げた。


「ええと、おでん、豚しゃぶ、温野菜サラダ、鶏肉のガーリック焼、れんこんきんぴら、しらす大根とご飯を炊きます。早速始めましょうか」


操・鴻・月美の三人で調理を始めた。

珠子は邪魔にならないように少し離れたところで見つめていた。

月美は帰りの車の中で、操が話したことを思い返していた。


──後をつけられたり、信号を待っていたとき突然背中を押されたり、知らない人に連れて行かれそうになったり、気味の悪い手紙が届いたり、散々よ。


背中を押した犯人は捕まったそうだが、闇バイトだったので指図した人物はわからないと言う。連れ去ろうとした人物も捕まっていない。それ以外も届けてあるそうだが警察は事件が起こらないと動かない。パトロールはするらしいが、二十四時間見守ってくれるわけではない。先ほどもスーパーマーケットの駐車場で自分たちが後をつけられていたらしい。物騒な話だ。


「月美さん」


「……」


「月美さん」


「あっ、すみません。考えごとをしてました」


「車の中での話?ごめんね。余計な心配かけちゃったわね。でも、包丁を持っているときは、目の前に集中してね」


操が月美を見た。


「はい、気をつけます」




102号室では、柏と柊と孝がくつろいでいた。

が、少し前のこと、仕事終わりに孝を迎えに行くと、彼が心配そうに言った。


「おかあさん、帰ってきてないんだけど、まだ仕事終わらないのかな」


「タカシ、実は俺たちの母さんのところにいるんだ」


「え、おかあさん、タマコちゃんのところにいるの?」


「ああ、母さんから携帯にメッセージがあった。みんなでご飯食べようって。けど、タカシに連絡しないのはダメだよな」


「でも、おれ携帯持ってないし、家にも電話無いから」


「そうだけど、こりゃ何か考えないといけないな」


といった話をしながらアパートに戻ってきたのだ。


「ノッシーにごはんあげていい?」


孝がケージを見つめた。


「おお、今、持ってくる。タカシは手を洗ってこい」


柊が小松菜を孝に渡した。


「ノッシー、はい」


ケージの上から小松菜を垂らすと成長期のリクガメは首を伸ばして葉っぱに勢いよく食いついた。


「食欲旺盛だな。ノッシー大きくなるんだぞ」


孝は優しい目でケージの中を見つめていた。


「終わったらタカシ手洗いな」


そこへ、操がやって来た。


「お待たせ。準備できたから、こっちに来て」


「母さん、タカシは月美さんが帰ってきてないって心配してたんだよ。こっちにいるのなら、そう教えてあげないと」


普段、穏やかな柏が怒り気味な声を上げた。


「ごめんなさい、タカシ君」


いつもでーんと構えて強気な操が、一気に肩を落とした。




101号室、


「こんばんは。お邪魔します」


孝が出迎えた鴻に挨拶した。


「こんばんは。初めまして。珠子がお世話になってます。母の鴻です。さ、どうぞ」


孝が奥に入って行くと月美がこちらを見ていた。


「孝、ごめんなさい」


「おかあさんが事故とかに遭ったんじゃないから、何事もなかったから大丈夫」


孝は月美の両手を握った。


「さ、めし食おうぜ。お前、胡座かけるか」


柊が孝を座らせた。

大きな座卓には所狭しと料理と鍋が並べられていた。


「鍋が二種類あるじゃん」


「さ、食べましょう」


鴻が言った。さっきから操は一言もしゃべっていない。


「ミサオ」


珠子が顔を見つめた。


「うん」


「母さん、ちょっときつく言い過ぎた」


柏が操の隣に来た。


「ごめんごめん、私が空気を重くしちゃったね。みんな食べて」


操は頑張って笑った。


「月美さん、タカシ君の食べたいものを取ってあげて。ご飯いる人」


五人が手を挙げたので、五つの茶碗にご飯をよそって、操は配ってまわった。

そうこうしているうちに、茜と藍がやって来た。


「お疲れさまです」


月美が取り皿と箸を二人に渡した。


「ありがとう。お腹空いた」


「ご飯よそっちゃっていいですか?」


「うん。お願い」


月美に向かってユニゾンで答えた。

一時間半ほど、みんなで食事をしているとお膳の上の鍋と大皿たちが気持ちいいくらい見事に空っぽになった。それを大人たちが片付けていると、

珠子が孝の隣に行って袋に入ったシュークリームを渡した。


「あっ、カスタードのやつだ」


「一緒に食べよ」


「うん。ありがとう」


二人で頬張っていると


「お前たち仲良いじゃん」


柊がからかう。孝は顔を紅くして少しうつむいたが、珠子は大きな声で言った。


「うん。仲良しだよ」




鴻と珠子と孝はソファーに座ってテレビを見ている。ダイニングテーブルでは、操・柏・柊・茜・藍と月美が孝との連絡方法についてと、今日スーパーで後をつけられてた件について話し合っていた。


「タカシの場合は常に携帯が必要なわけではないんだよな。毎月かかる料金を考えるとなぁ」


柏が考え込む。


「私、ここから近いので今日なんかは家に戻ってメモを残しておけば良かったんです。まだスマホは必要無いです」


月美は言った。


「まあ、そうだな。タカシが心配に思う事があったら、とりあえずここに来てもらうのがいいんじゃない。俺たちのがいない時間だって、母さんのところやお義姉さんのところでも良いし、茜と藍だって仕事と仕事の間にここに戻ることがあるんだろう」


柊の提案に


「そうだね。それなら月美さんと連絡取れるよね」


茜も賛成した。


「ご面倒おかけします」


月美が恐縮した。


「なーに言ってるの。私たちと月美さんたちは親戚みたいなものよ」


藍が月美の背中を軽くトントンと叩いたた。


「それで、問題なのはタマコの件だな。変な手紙が届いてから、防犯カメラを付けただろう」


「ああ、101号室(ここ)の入り口とポストにな。でも今のところ怪しい者は映ってない」


柏と柊が毎日映像を確認している。


「だけど、尾行なんて誰が何の為にそんなことをするんだ。いい加減にして欲しいな」


柊がしかめっ面で言う。

みんながいろいろ話している間、操は一言も口を開かなかった。


「お母さん、大丈夫?」


藍が操の顔を覗き込む。


「うん。多分」


「ねえ、今夜は休んだ方がいいわ」


茜は操を寝室に連れて行った。


「母さん、鬼の霍乱(かくらん)か」


柊の発言に、珠子がいつの間にか傍に来てほっぺたを膨らませた。


「そんなこと言っちゃだめ。ミサオは私の為にずっと神経を使ってるんだよ」


「ごめん」


「月美さんたちも、そろそろ帰った方がいいわ。兄さんたちどっちか送ってって」


茜の話に柏が手を挙げた。


「俺、送ってく。タカシ、月美さん行きましょう」


「すみません。皆さんごちそうさまでした。操さんお大事に。おやみなさい」


月美が孝の手を引いてお辞儀をした。


「タカシ君おやすみなさい」


珠子が手を振った。

孝も振り返し帰った。


「今夜、私ここに泊まって、お義母さんの様子を見ます」


「お義姉さん」


「皆さん明日も仕事なんですから、もう休んでください」


「それじゃ、お母さんのことお願いします」


「はい」


「おやすみなさい」


柊・茜・藍は操の部屋を後にした。


残った鴻と珠子は、操の様子を確認した。

静かに寝息をたてていた。


「ミサオは私の為に神経を使って、草臥(くたび)れちゃったんだね」


珠子が呟いた。


「ママね、ばあばが元気になったら、話したいことがあるんだ」


鴻は珠子を見つめた。珠子は頷いた。

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