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可愛くて生意気な姫

午後三時、幼稚園から帰った珠子は操が作ったバナナクレープを頬張っていた。隣には同じくクレープを美味しそうに食べる孝の姿もあった。


「今日のクレープは上手くできたでしょう?」


操がお伺いを立てる。


「おばあちゃん美味いよ」


孝は素直な感想を言った。


「ミサオ、美味しいよ。今日のは月美さんから教わったんだよね。この前に作ってくれたのは薄ーいパンケーキだったけど、これはちゃんとクレープだね」


珠子も正直に答えた。

操は、エヘヘと笑ってごまかしながら


「タカシ君のお母さんは、私の料理の先生だわ。これからも教えてもらうわ」


孝を見て言うと、彼は頷いた。


「おばあちゃん、いつでも来ていいよ。お母さん、一緒に料理するの楽しそうだったよ」


そう話した孝は、珠子を見て更に言った。


「おばあちゃんが料理を習いに来る時は、タマコも一緒に来いよ」


「なんで?」


珠子が首を傾げる。


「花嫁修業だよ。おれは料理上手な人をお嫁さんにしたい」


「わかった」


「あらタカシ君、今、さり気なーく姫にプロポーズをしたのかな?それで姫もOKしたって事ね」


操がからかうと、孝は顔を紅くしてクレープを口に運んだ。

微笑ましく二人の孫を操が眺めていると、インターホンが鳴った。


「母さん、入るよ」


柊の声がして、柏と同じくらいの長身が入ってきた。


「おっ、タカシ久しぶり。腕の具合はどうなんだ?大変だったな」


柊が孝の頭を撫でる。


「ヒイラギ、いらっしゃい。もうすぐギブスも取れるよ」


「そうか」


「ヒイラギ君、こんにちは」


「こんにちは。タマコ、幼稚園に通ってるんだって」


柊は珠子の向かい側に座った。


「うん。タカシの学校の隣だよ」


珠子はクレープを頬張りながら答えた。


「母さんが午前中、元気がなかったのはタマコがいなかったからかぁ」


「私、元気なかった?」


「ああ。俺や茜の話を殆ど聞いてなかった」


柊は、午前に104号室のメンテナンスの件で大家として立ち会っていた操の覇気の無さが気になって、ここに顔を出したのだった。


「余計な心配をかけたわね。でも大丈夫よ。姫がいない事に少しずつ慣れないとね。来年は小学生になるんだし、この先はもっと一緒にいるのが少なくなるんだもの」


柊にクレープとアイスコーヒーを出しながら操は笑顔を見せた。


「ミサオ、私が幼稚園にいる間、寂しいの?」


珠子が覗き込むように操を見た。


「それは、そうよ。この可愛くてちょっと生意気なことを言う私の姫の姿が見えないのはとても寂しいわ」


操に言われて、


「そっかぁ」


珠子ははにかんだ。


「ところで、ミユキちゃんと千春ちゃんは元気なの?」


「ああ。千春は声量があってさ、機嫌が悪い時は大変だけど、やっぱり可愛いよ。お義母さんがちょくちょく来てフォローしてくれてるから、俺はあまり大変じゃないけどね。俺は、あの子が機嫌がいい時だけ抱っこするんだ」


と言いながら、柊は携帯電話の待ち受け画面と撮りためた画像を、みんなに見せた。千春のご機嫌な顔に操たちも顔をほころばせた。


「ミユキに似て美人だろう」


娘自慢をする柊に、みんな頷いた。


「確かに、目鼻立ちがしっかりしてる。ねえ、美子さんはあんたのところによく来てるの?」


操が聞いた。柊はアイスコーヒーをゴクゴク飲んでひと息つくと、


「お義母さんは平日の昼間によく来てるかな。休日は俺に遠慮してるけど、たまにお義父さんが千春の顔を見に来る」


初孫だからな可愛くて仕方ないよな、と言った。


「子ども食堂はやってるの?」


珠子が聞いた。


「ああ。営業してるよ。俺たちは手伝えないけど、ミユキのお義父さんが千春に会いがてら、食材の差し入れをしてる」


「また、お手伝いしたいな」


「タマコ、調理とか好きなのか?」


「うん。お料理ができる人になりたい」


「へえ。おまえは食べるの専門だと思ってた」


「だってタカシのお嫁さんになるには、お料理上手にならないと」


珠子は真面目な顔をして言った。

それを聞いた操と柊は顔を見合わせて思わず笑い、孝は恥ずかしそうに俯いた。

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