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やっぱり操と孝がいい

「タマコ!」


操と珠子が幼稚園の一日体験を終えて家路についている途中、後ろから孝が声を上げながら走ってきた。


「タカシ、今帰りなの?」


勢いがつきすぎて珠子たちを結構追い越したところで止まった孝の後ろ姿に珠子が問いかけた。


「そう。昇降口を出たとき正門の辺りを歩いているタマコたちを見かけたからダッシュした」


孝が珠子を見ながら後ろ歩きをしているので、操が危ないよ、と注意した。


「姫、タカシ君と並んで歩いて」


繋いでいた手を放して珠子を孝の隣に行かせた。


「初めての幼稚園はどうだった?」


自分のより小さくて柔らかい彼女の手を握って歩きながら、孝が聞くと


「いろんな子がいて面白かった。お友だちが一人できたよ。葵ちゃんっていう子」


珠子は充実した顔を浮かべた。


「へえ。おまえって、人見知りしないんだな」


「うん。通うって決めてから、恥ずかしがらないでできるだけいろいろな子と話をしようと思って」


「葵ちゃんはどんな子なんだ?」


「うーん、まつげが長くて、可愛くて優しい男の子」


「男の子!」


孝の顔が曇る。


「うん、男の子。だけどどこから見ても可愛い女の子にしか見えないの。自分のことを私って言うし」


「へえー」


「タカシが見たら、きっと彼女にしたくなるよ」


「ないない」


「あとね、いかにもって感じの番長っていうかガキ大将っていうか、わかりやすい子がいた」


「へえ」


「私のことをタマゴってからかいながら、変な名前ってバカにしたの」


「それはタマコが可愛いから話すきっかけを窺ってたんじゃないか」


そう言いながら孝は、珠子と自分の距離が遠くなっていくんじゃないかと不安な気持ちになった。


「なんかね、他の子とも遊びながら少し話をしたんだけど」


「そうか。で、話をしてどうだったんだ?」


「みんな、凄くお子様だった」


「おまえだって、お子様じゃん」


思わず孝が笑う。


「私は今までずっと大人に囲まれてたし、タカシとずっと一緒にいるからさ」


「うん?」


「タカシと一緒にいるのが一番ほっとするし、話をするのも楽しいの」


「そ、そうか」


孝は表情を変えずに珠子を見ようとしたが、


「タカシ、ニヤけているよ」


目尻を下げて緩んだ顔を指摘されてしまった。


「私、ずっとそうやって過ごしていたから、幼稚園の子たちに合わせて話をしたら疲れちゃった」


珠子がふうーっと小さなため息をついた。




アパートに戻り、自分の部屋にあがると、


「あーっ、腰が痛い」


ソファーにどさっと腰を下ろし、操が情けない声をあげた。


「ミサオ、お疲れさまでした。うつ伏せになって」


珠子は小さな手のひらで操の腰を押した。


「あー、気持ちいい」


「そう。良かった。足も揉んであげるね」


しばらく腰を押したり叩いたりしたあと、操の右のふくらはぎを両手で揉みながら


「ミサオ、幼稚園までなら私一人で行けるよ」


珠子が言う。


「姫、私に気を使わないでいいから」


「気を使ってるんじゃないよ。でもミサオにはずっと元気で私の傍にいて欲しいから、自分でできる事は自分でする。あ、でも髪の毛はミサオに結んでもらう」


珠子が左のふくらはぎを揉みながら言うと、操は足が軽くなってきたわ、と気持ち良さそうに深く息を吐きながら、


「姫、私はなかなか孫離れができないおばあちゃんなのよ。だから、できるだけあなたと一緒にいたいの。私から姫と手を繋いで歩く機会を無くさないで」


と懇願した。それを聞いた珠子は、揉んでいた手を止めて操の上に彼女と同じようにうつ伏せに乗っかった。


「ミサオと同じ格好でぺったりくっ付いたよ」


操は背中に珠子の暖かな体温を感じて嬉しかった。


「姫、ちょっと重い」


と操は言いながらも、もう少しの間こうしていてと頼んだ。

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